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内臓や筋肉を食い荒らすウジ虫が皮膚の下でボコボコと動き…鑑識官が目にする「孤立死」の悲惨な実態

『老人たちの裏社会』より #2

2021/04/20

genre : ニュース, 社会

孤立死の現場は作り物のCG映画の比ではない

 近年、東京都監察医務院に搬送される高齢者の遺体の3割が孤立死とされるが、自宅で一人で事切れた際、最も問題なのは「いつ発見されるか」だ。死因や状況、季節にも左右されるが、1~2日以内であれば亡骸の傷みも比較的少なく、搬送や検証、のちの現場処理の負担も軽くて済む。無論、時間が経つにつれ遺体は腐敗が進み、壮絶な悪臭を放ちながら凄惨な姿に朽ち果てていく。畳や床には溶けた皮膚や肉が、壁や天井には強烈な臭いが、日を追って奥深く浸透し続ける。

 県警鑑識官の中沢氏が重い口ぶりで語る。

「どんな密室の遺体でも、大抵は必ず数日でウジが湧きます。口や肛門から入ったウジ虫は体中から内臓や筋肉を食い荒らし、遺体を膨らますように皮膚の下からボコボコと動く。次いでゴキブリやネズミが集まり、過去にはゴキブリの甲冑を着ているのかと見間違えたほどの亡骸もありました。さらには、カツオブシムシという虫(甲虫目カブトムシの一種)がたかって干乾びた肉を食べ尽くし、白骨化した遺体もある。現場は作り物のCG映画の比ではなく、直視に耐えない光景と凄まじい悪臭に失神した同僚もいます」

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臭気の凄まじさは筆舌に尽くしがたい

 その上で、のちに「誰がどのように家を片づけるか」の問題が続く。主人を失い、引き取り手のない物品はすべて、主の死の瞬間を境に膨大な量の不要品と化す。時間と体力のある親しい血縁者が近くにいれば話は別だが、縁者が遠方にいたり、体力の乏しい高齢者ならば、とても身内だけで片づけられるものではない。それがゴミ部屋だったり、発見が遅れた悪臭と虫の巣窟であったら尚更だ。

 業者に依頼すれば最低でも十数万円を越す費用がかかるが、故人の縁者が不明だったり拒否したりなどすれば、賃貸物件ではやむなく、家主がすべてを負担せざるを得ないケースも相次いでいる。

 前出の中沢氏が言う。

「遺体の腐敗が進んで長く放置されていた場合、遺品をはじめ、あらゆる物に臭いが染みつく。集合住宅では、下階の天井からも臭い続けるほどです。壁紙や畳、床を剥がして何度消毒しても早々には臭気が抜けず、場合によっては半年から1年くらい、室内をがらんどうにして外気を通す必要も生じます」

 事実、臭気の凄まじさは筆舌に尽くしがたい。警察官や清掃業者、葬儀関係者などが皆一様に「何と表現したらよいかわからない臭い」と口を揃えるのも頷ける。どの現場に立ち入っても、あの独特の臭いを言い表せる妥当な言葉は見つからない。とにかく「凄まじい臭い」としか言い様がないのだ。どれだけ言葉を尽くしても、現場の悪臭を他の何かの臭いで代弁して伝えるのは不可能だろう。それほどに日常生活のなかで誰もが知っている臭いとは“種類”が違うのだ。