“誰にも看取られずに一人で逝く”といっても、内実は様々
薄い壁で仕切られた簡易宿泊所でも、腐乱死体となってから発見される孤立死もある。一方で、川辺のテントを住処とするホームレスの高齢者が、死の数時間後に仲間に見つけられ、適切に対処されて手厚く葬られたケースもあれば、親子で住む二世帯住宅で1週間以上放置された遺体が近隣者の通報で搬送された事例もある。
実際、“誰にも看取られずに一人で逝く”といっても、内実は様々だ。
農村地では田畑の中で一人倒れたまま、数日以上見つけられなかった死もあった。
溶けた肉がドロドロになるまで、24時間風呂で延々煮込まれて白骨化した遺体や、和式トイレで力んだ拍子に脳出血となり、トイレットペーパーを握り締めて仰向けに倒れたまま、ミイラ化して発見された亡骸もある。
また、主の死がわからず、腐り始めた遺体に幾度となく頬ずりをして、体の一部を血塗れにしながら寄り添う飼い猫と一緒に発見された高齢女性や、密室で亡き主人の腕を食べて命を繋いだ愛犬とともに見つけられた初老男性もいた。
加えて、自身の価値観と生き様に準じた孤立死もある。
信念があっても、発見が極端に遅れることが問題
「国の世話になるなら死んだほうがマシ」と、生活保護を受けずに困窮した生活を続け、病院にも行けずに栄養失調から死に至るケースや、未婚の年配女性が「人前で裸になったり、肌を晒したりするのは恥」と検査や手術を拒んで病気を進行させ、自室で死を迎えた例もある。
「己の信念に基づいて、孤高に死ぬのは立派なこと。ただ、発見が極端に遅れることが問題なのです」と、法医学に携わる医師が断言する。
「突然に襲われる脳溢血や心不全での急死は、絶命までにわずか数秒から長くても1分以内の猶予しかありません。死においては、とかく助かるのを前提に議論されることが多いが、突然死の場合、たとえ名医が側にいても救命はかなわないのです。老人の定義は『死を待つ人』で、高齢者は脱水だけで簡単に死に至ります。その“瞬間”を一人で迎えるか、周囲に人がいるなかで終えるかは、多くの場合で天命に左右されるのだということを、誰もがまず前提として踏まえておかねばならないでしょう」
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