高齢化が社会問題として叫ばれはじめて久しい日本社会。厚生労働省の発表によると、2020年の出生数は過去最低の87万2683人と、高齢化問題の解決策はいまだ糸口が見つかっていない。

 そうしたなかで、老人たちによる犯罪行為が顕在化してきている。ここでは、ノンフィクション作家の新郷由起氏が不良化する高齢者たちのリアルに迫った『老人たちの裏社会』(宝島社)を引用。老人同士の生々しいDV問題について紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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80歳の夫が75歳妻へ壮絶なDV

 高齢者による度を越した暴言・暴力は、公共の場でこそ人目に晒され、戒めを受ける機会も得るが、閉ざされた“密室”の凶行では、深刻な事態に進展してからでしか発覚しない場合も多い。

 配偶者間の暴力=DV(ドメスティック・バイオレンス)がそれだ。

 割合的には男性側からのDVが圧倒的だが、「健常者の場合は老化により、いきなり凶暴性が芽生えてDVに発展するケースはまずありません。男性では元来の性格や気質がより顕著に出る形で暴力的になる」(前出・芦刈氏)という。

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 考えてみてほしい。

 一線を退き、日常生活でかかわる人間が極端に減る。肩書きもなくなって社会的地位や世間体など外部からの抑圧も消える。子どもも巣立って夫婦二人の生活では間に入る人間もなく、完全な密室と化す。日々のなかで気に入らない事柄や不満があっても、憂さを晴らす術を知らず、受け止めてくれる相手が“目の前の一人”しかいない。元来DV気質だった夫が、コントロール不能になった感情の暴発と持て余した体力を、筋力が減って骨が脆くなった妻へ向けるとどうなるか――。

「年を取れば、父も丸くなると信じていたんです。体も衰えて、もう暴力なんて振るわないだろうと思っていたのに……」

 実家へ向かう高速バスの車中、山崎智美さん(仮名/44歳)は暗鬱とした表情のまま呟いた。彼女が幼少時から苛まれてきた父親の家庭内暴力は老齢になっても収まらず、今回、母親がDVにより右大腿骨頸部と右手首を骨折。病院からの知らせを受けて、8年ぶりに故郷へ向かうこととなった。彼女の父親は80歳、母親は75歳だ。

「父は気に入らないことがあると、母を殴る、蹴る。私たち兄妹もよく叩かれ、父には『死んでほしい』と本気で願ったことも一度や二度じゃない。母には何度も離婚を勧めましたが、『あんたたちを片親にはできない』の一点張りで……」