妻から夫へのDV ――原因は「恨み」
一方、数は限られるが、女性から男性へのDVも実在する。先の芦刈氏が言う。「女性の暴力はほとんどの場合で恨みから発します。壮年の頃、体力では敵わなかった男性側が衰えるのを待ち、足腰が弱まるなどして逃げられなくなったら最後、ここぞとばかりに恨み殺す勢いで報復に転じるものです」
夫のたび重なる浮気や婚外子の存在などはその典型で、当時は子どもや生活のため、世間体などから別居や離婚もせずに我慢してやり過ごしていたのを、年を重ねて、澱のように積もった凄まじい恨みを何かの拍子に噴出させるのだ。拭い去ろうとしても忘れられずにいる心に刺さった棘は、本人にとっては時間の経過で癒やされる類のものではない。
「男性はすっかり忘れていても、女性は恨みに対する記憶が鮮明で、やられたことを覚えています。しかもやり口が巧妙で、朝から晩まで聞くに堪えない暴言を吐き続けたり、大事に至らない程度で背後から突き飛ばす、新聞などを丸めた紙で目立たない部位を力いっぱい叩く等、表沙汰にならないようにする。あからさまに痕を残したり、大怪我を負わせたりする暴行には及ばないため周囲にも気づかれにくいのです」(同前)
女性ならではの陰湿なDVは高齢者虐待でもあるが、「やんちゃだった夫を、自宅で献身的に世話する温情深い妻」とカモフラージュされれば、他人は内情を知る由もない。
「寿命を3年は縮めてやったわね」
大泉昭代さん(仮名/80歳)は、6年前に他界した夫に対し「寿命を3年は縮めてやったわね」と、あっけらかんと笑う。
同い年の夫は「呑む、打つ、買う」の放蕩三昧。生活費もろくに入れずに、長女出産直後には他の女性と駆け落ちまがいに家を出た。数年後に戻ってきてからもギャンブルによる借金生活は続き、昭代さんは2人の子どもを抱えて昼夜を問わず、仕事を掛け持ちしながら身を粉にして働いたと目を潤ませる。
夫は70歳頃からリウマチが悪化。手足の痺れや倦怠感も訴えるようになり、単身での外出が困難になった。
「痛がったり、苦しんだりするのを見ても『いい気味』としか思えない。好き放題して何の役にも立たず、これまで私にかけた苦労と屈辱をどうしたら味わわせられるかに腐心した。早い話が、いびり倒したということよ」