夫の暴君ぶりは新婚直後から顕著
清水富子さん(仮名/77歳)は2年前に友人の経営するアパートの一室を格安で借り、東京から栃木へ移って夫と別居。一人暮らしをしている。
「親友と一緒に入れる共同墓地も購入したんです。離婚が無理でも、夫やその一族と同じ墓に入らずに済むと思うだけで、心が軽いの」
23歳で2つ上の夫と見合い結婚。旧家の長男でもあった夫の暴君ぶりは当時から顕著で、新婚直後から青アザも絶えず、30代には首を絞められて失神するなど、たび重なる暴力に耐え続けた。
「私を蔑んで馬鹿呼ばわりするのは当たり前。『能なし』『役立たず』『クズ』等も挨拶代わりで、今思えば人として扱われていなかったのかもしれない」
打撲や骨折で病院通いになっても離婚を考えなかった一番の理由は経済力だが、戻れる実家がないのも大きかった。
「傍目には『3高』の結婚相手ですから、子どもたちが独り立ちするまで周囲からも離婚を勧める声はありませんでした。また、怪我の後には決まって何か穴埋めするような贈り物があり、うまくごまかされていたのかもしれない。口も手も悪い代わりに、そうしたものが愛情の証だと信じていたかったし……」
「このままでは夫に殺されてしまう!」
50代半ば、鎖骨にひびを入れられた際には海外旅行が用意された。暴行と罪滅ぼしが飴と鞭のように使い分けられるなかで、「少々のことは自分さえ我慢すれば丸く収まる」と、70歳を過ぎるまでは「添い遂げる覚悟でいた」という。
ところが4年前、壁に頭を打ちつけられて頭蓋骨を骨折。幸いにも全快して事なきを得たが、「『このままでは殺されてしまう!』と、初めて死を意識しました」と、別離を決めた。
退院後は一時的にシェルターへ避難したが、3人の子どもたちの援助もあって自立した生活を確保。夫へ離婚届を送りつけた。
「子どもからの話では、『別れるなら、これまでに食った米と使った金を返せ!』と言っているそうで、『家計を任せていたが、勝手に余計な金を使われた。自分こそ被害者で妻を訴えたい』とも話しているとか。今まで一度もお小遣いすらもらっていないのに」
咳払いや足音に怯える日々から解放され、好きなときに好きなことをして好きなものを食べられる自由に「偏頭痛も治まった」と言い、呪縛が解かれた今は「1DKのアパートが6LDKの一戸建てより私には贅沢なお城。一人暮らしの寂しさはあるけど、友達や娘夫婦も近所に住んでいるから心強いし、思っていたより気楽。何はともあれ、まだこうして生きているのがありがたい」と、顔の前で手を合わせた。