文春オンライン

2021/04/19

「あの時は現役だったから何とかなった。今は、年金暮らしで子供もいるから、うちの生活を壊してまでも助けてやれない。自分のことは自分でやらなしょうがない。もしまた連絡が取れるようだったら、援助はできないと伝えておいてくれ」

 お礼を言って電話を切った。

「日本に帰っても仕事あらへんで。帰る気はないね」

 家族から見捨てられている。吉田が帰国するためにかかる費用はおそらく15万円もあれば足りるだろう。だが、姉一家からすれば、そんな金を工面してあげたいと思うほどの関係ではもはやなくなっていた。人と人とのつながりが薄れる「無縁社会」という言葉が頭をよぎった。一方、フィリピンでは、血縁関係にもない貧困層の人々が吉田の面倒を見ている。当然、吉田がこれまで姉にした不義理が根底にあるのは言うまでもないが、それでもこのギャップが何か腑に落ちない。

バクララン教会周辺には食べ物や日用品を売る露店が並ぶ 写真=著者提供

 このやり取りを後日、吉田に伝えた。

「姉さんとはもう話したくない。まあ何て言うのかな、ま、いいかという気持ちだよね。援助をお願いしますという感じにはならない。肌が合わんちゅうか、今さらお願いする気にはなれないね。怒ってるっちゅうのは、自分がやってしまったことがあるから理解はできる。姉さんはまじめな人だから、自分がおかしいだけだから」

 期待を裏切られた姉に対する気持ち。同時に自分の責任も感じている複雑な心境を吉田は抱えていた。

「ここで死んでもいいなあと思っとるね。ここだったらこうやってやっとれるで。いいんじゃないの、日本に帰っても仕事あらへんで。帰る気はないね」

 私の目を見ながら、さっぱりとした口調だった。