文春オンライン

2021/04/19

「最後に頼る人は同じ日本人しかおらんからね」

 吉田と出会ってから1年近くが経過した。所持金がなく身動きがとれない環境のため、吉田の心は振り子のように常に揺れ動いていた。寝泊まりするバクララン教会の外で、ある晩、私と吉田は甘ったるいコーヒーを飲んでいた。だが、会話がなく沈黙の時間が続き、何となく重苦しい空気が流れていた。吉田は、これ以上私の取材を受けても帰国への援助をしてくれるわけではないし、一緒にいるメリットはないと考えていたのかもしれない。相手は無一文に近い状態。私は普通に仕事をして給料をもらっている。こちらが考えている以上に、相手の私を見る目線は違っている。吉田は重い口を開いた。

「金持ちの社長でも紹介してもらえないか。金の工面がつかん。毎日同じパターンの繰り返しで、これ以上のことは何もできない。最低限のことをやっとればこうやって飯は食えるけど。不法滞在の状態を解消するため、罰金額を援助してくれないか、話だけでもしてくれないか」

 やっぱり苦しい、誰かにすがりつきたい、心のユートピアなんて存在しない。そんな叫び声が吉田の腹の底から聞こえているような気がした。

真夜中のバクララン教会は静まり返っている 写真=著者提供

「異国の地だで、同じ日本人だったら助けて欲しいっちゅう気持ちはあるな。行き当たりばったりで、こうなっちゃって。どうしたらいいかな、『助けることはできません』と言われれば、じゃどうすればいいのか。死ねっちゅってるのと同じだわね。最後に頼る人は同じ日本人しかおらんからね」

 私も返答に詰まった。「大変ですね」と他人事のように言うわけにもいかず、「援助しましょうか」とも簡単には言い出せない。なけなしの金でやってきて、今では異国の地で寂しく1人こうやって教会で暮らしている。そんな人間を目の前にして、どう接してよいのか分からなくなった。日本であれば、炊き出しや路上生活者同士のつながりというのもあるだろう。しかし、ここでは吉田は1人なのだ。