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「千を出せ!」我修院達也70歳が明かす『千と千尋』アオガエル“キャラ声”誕生の「秘密兵器」

我修院達也さんインタビュー #1

2021/04/02

source : 文藝春秋 digital

genre : エンタメ, テレビ・ラジオ, 映画, 読書

――あまりプレッシャーも感じずにできたと。

我修院 初の“キャラ声”だから、宮崎監督の作品だからと、舞い上がることはなかったですね。自分なりに緊張感を持たせるというか、神経は使いましたけどね。

 ただ、ビックリしたというか、面白かったのは、当時のジブリの録音スタジオにはサブ(調整室)がなかったんですよ。『ハウル』の頃にはちゃんと壁で仕切られたけど、当時は試写室を簡易的に録音スタジオに仕立てた感じで壁なんてなかったの。だから、客席にミキシング・コンソールを置いて、スクリーンの前辺りにマイクを立ててアフレコしたんですよ。

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 それで僕が〈青蛙〉や〈カオナシ〉を演じて「んうぅ゛」とか「アッ」とかやっていたら、監督がプッと吹き出しちゃったんですよ。宮崎監督や音響さんとの距離はめちゃくちゃ近いし、音を遮る壁もないから入っちゃうの。音響さんが「監督、ちょっと音が入っちゃいましたから、出ていってください」って注意する……なんていう一幕もあって、「ごめん、ごめん」と笑いながら仰ってタバコ吸いに外へ出ていったことがありましたね。

アフレコの時は〈青蛙〉の絵もなかった

――監督が原因のNGというのは、ちょっと文句が言いにくそうですね。

我修院 でも、プッと吹き出すくらいに受けたというのはオッケーであることの証拠なわけですよ。だから、喜んでいただけて良かったなと思って。

 あと、スタジオを仕切る壁もなかったけど、アフレコの時は〈青蛙〉の絵もなかったんですよ。まだ、完成していなくて〈青蛙〉がいる部分に鉛筆でササッと描いた黒い丸がある状態で。本当にただの黒い丸で、それが動くんですね。〈青蛙〉の表情なんてわからないけど、台本のストーリーとセリフを読み込んで自分なりに考えてやるしかないわけ。ラッシュで初めて〈青蛙〉の姿を見たときには、「うわぁ、こんなに可愛かったんだ」と思いました。

『千と千尋の神隠し』より

――〈青蛙〉の絵はないうえに、監督の笑い声が録音されてしまうこともあったとなると、けっこうリテイクはあったんでしょうか?

我修院 1回だけありましたけど、原因は僕。「いま、人間になっちゃってましたよ」って言われちゃった(笑)。録音を聞かせてもらったら「なるほど、たしかにこれは人間だな」って思いましたね。それで「ちょっと待っていてください」と控室に戻って、カバンからカエルのぬいぐるみを取り出しスタジオに持ち込んで、録り直したらオッケーが出た。

――アオガエルの持ち込みは、役作り的なものですか。

我修院 そうです。13種類くらいかな。いろんなカエルのぬいぐるみをカバンに詰め込んで、アフレコに持っていきましたよ。小さいものを服の胸ポケットに差し込んで、顔をチョコンと出したりして。そうしたら、また監督が吹き出しちゃってね(笑)。

©末永裕樹/文藝春秋

――役作りとしては、他にどんなことを?

我修院 やっぱり、人間以外の声をやるというのは初めてだったですからね。役作りといったって、カエルがしゃべるのなんて聞いたことないじゃないですか。だから勉強をしようがないから、自分で作らなきゃいけないわけですよ。「山田(殺し屋)の高い声でお願いします」と言われたからって、その音色でただしゃべってみてもねぇ。

 そこで、ちょっと考えて監督にお伺いを立てたの。「あのう、“我修院スタッカート”っていうのをやっていいですか?」「それ、なんですか?」となったので、「うーぅん、うぇっ」とか実演してみせた。ほかには“我修院テヌート”とか。トランペットのグリッサンドじゃないけど、〈青蛙〉が放つ「ンァァアア」とか「うぇっ、うぇっ」とかっていうのは、すべて音楽的な記号を振って台本に書いていったの。

――“我修院スタッカート”“我修院テヌート”は、もはや技と言っていいですね。

我修院 それ以来、石井克人監督の『スマグラー おまえの未来を運べ』(11)を撮っている時にも「我修院さん、テヌートでお願いします」とか注文されましたしね。最近も『ルパンの娘(第2期)』(20)に山本猿彦という老執事の役で出たんですけど、「今日はスタッカートでやってよ」とか言われて「ウィッ」とか入れていますから。

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