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「千を出せ!」我修院達也70歳が明かす『千と千尋』アオガエル“キャラ声”誕生の「秘密兵器」

我修院達也さんインタビュー #1

2021/04/02

source : 文藝春秋 digital

genre : エンタメ, テレビ・ラジオ, 映画, 読書

「千を出せ!」〈カオナシ〉の意思どおりに声を出す

――我修院さんは、〈青蛙〉を食べた後の〈カオナシ〉の声も演じられていますよね。基本的に同じ声ではあるわけですが、演じ分けみたいなものはかなりされていたのですか?

我修院 〈カオナシ〉は顔も無いけど、声も無いからね。〈青蛙〉を食べたことで、その声で話せるようになるんだよね。演じ分けに関しては、監督からもアドバイスがありました。声質だけ〈青蛙〉で、後はもう〈カオナシ〉になっちゃってくれと。飲まれちゃったら、〈カオナシ〉の意思どおりに声を出さなきゃしょうがない。〈青蛙〉はそんなに凶暴な性格じゃないんだけれども、声だけ借りられているので「持ってこい~」とかってなるわけです。「千を出せ!」って低い声になっちゃって。〈カオナシ〉の体がさらに大きくなってくると、ちょっと低くなるというか声が太くなる。

『千と千尋の神隠し』より

〈カオナシ〉の声をやっている時、僕も〈カオナシ〉の内面と同じような顔つきになってるんだよね。顔って共鳴箱なんで、暴れまわるシーンでは、そういう顔をしないとそういう声が共鳴して出てこないんです。表情を作って響かせる。泣いている時は、本当に泣かないと。だから、誰かのモノマネをしているとその人に似てくるというのは、口の開け方をはじめ、同じような顔を演じるから似てきちゃうわけです。

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〈カオナシ〉に関しては、エフェクトもやってます。監督に「ちょっと擬音もやりたいんで」とお願いして〈カオナシ〉が食べた〈青蛙〉を吐き出す音も任せてもらいました。

『千と千尋の神隠しより』

――〈青蛙〉がちゃんと出てきて、水辺に浮かぶシーンにはほっとしました……。我修院さんは、宮崎監督と何か個人的にお話しされるような時間はありましたか?

我修院 いまタバコはやめてますが、その頃の僕は超が付くヘビー・スモーカーだったんですよ。ジブリは禁煙だから参ったなと思っていたけど、監督は思いっきり吸ってるんですよ(笑)。もちろん、所かまわず吸っているわけではなくて、監督が吸う場所が上の階にあるの。それで「僕も吸いたいんですけど」と言ったら、「じゃあ、行こうか」って、上に連れてってくれて。そこでタバコを吸って「さっきの感じ良かったね」なんて、アフレコの感想を教えてくれたりね。ほんと、フランクに接してくださいました。

 あと、〈青蛙〉は作画の方ではなくて宮崎監督が直々に描いてるんですって。「僕が描いてるんだよね、コレ。あげるから、好きなの持っていって」なんて言って、原画のコピーを渡してくれたりして。とにかく、僕には終始優しかったな。でも、凄みというか、そういう内に秘めたるものは、僕にも伝わった。オーラみたいなものが出てるんですよね。