川越 10年くらいサラリーマンをやっていて、ようやく生活が落ち着いてきたタイミングで、「新しい趣味でも」という軽い気持ちで小説を書き始めました。ただ、初めて書いたにもかかわらず結構自信があった作品で松本清張賞に応募したところ、あっさり落ちてしまいまして……。これは、頑張って書かないと、自分の作品が世に出ることはないなと思って、勉強して再挑戦した結果、『天地に燦たり』(文春文庫)が清張賞を受賞しました。
天野 僕も最初は新人賞に落ち続けましたね。それまで普通の歴史小説を書いていたんですが、大学時代にやっていたバンド活動、楽器演奏と歴史をくっつけたら面白いと思って、どの時代が合うだろうと探していくうちに安土桃山時代かなとなり、それを描いた『桃山ビート・トライブ』(集英社文庫)で小説すばる新人賞を受賞してデビューできました。
谷津 歴史小説に限らず、小説家の多くは新人賞を受賞して、その受賞作が本になることが多いと思うんですが、僕の場合、2012年に「蒲生の記」で歴史群像大賞優秀賞を受賞したものの、いまに至るまで書籍化されていないんです。
一同 えっ!?
谷津 題材が地味だったんでしょうね。「蒲生の記」というタイトルから、戦国大名の蒲生氏郷を描いた作品だと想像されるかもしれませんが、実は蒲生君平という、江戸後期の儒学者を描いてまして。
川越 メッチャ熱いじゃないですか。
谷津 熱いんですけど、誰も知らないという(笑)。その経験があるので、本として出版するには、ある程度のけれんみや派手さが必要だという風に考えて題材を選ぶ癖がつきましたね。
武川 派手かどうかは分かりませんが、私は合戦を書きたいと思って小説家になりました。合戦が強い大名って誰だろうと思ったときに、武田家が浮かんだので、それがデビュー作の『虎の牙』(講談社)へとつながっています。
川越 僕も合戦シーンは好きだけど、この前書いた短篇では、編集者から「合戦シーンはいらないのでは?」と指摘されてしまって(笑)。作品の題材を選ぶときって、ウィキペディアが意外と役に立つんですよ。気になる人や項目のリンクをずっとたどっていくことで面白い何かが見つかる。
今村 同じことしょっちゅうやってる(笑)。「こいつ、誰やねん」ってところまで調べていったり。
澤田 私の場合、古代を扱うことも多いので、ウィキペディアでは項目すらなかったりします(笑)。その代わりじゃないですけど、創作に役立つのは史料ですね。史料の中で、名前だけ出てきて、そのあと登場しない人っているじゃないですか。そういう人がその後どうなっているか妄想するのがすごく好きで。どの作品でも、歴史上チラッと出てくるけど、すぐに居なくなる人を取り上げようと思っています。