韓国への輸出向けに購入した「水建丸」
「大手や準大手のゼネコンが訪朝団を組んで問題になったでしょ。水谷建設が乗り出したのは、そのあとです。発砲事件なんかがあって、大手や準大手では北朝鮮に手が出せなくなった。そのへんの絡みから、チャンスと見たのではないでしょうか。そこで、まずは海州という沿岸部の海砂を安く輸入しようと計画を進めました。最終的には、その砂を韓国経由で日本に運ぼうとした。そのために会社をつくり、浚渫船まで購入しました」
海州は平壌の南西100キロにある。韓国国境に近く、渡りガニなどの水産業で栄えてきた。ちなみに、2010年11月に北朝鮮軍に砲撃されて有名になった延坪島は、海州市のすぐ南に位置する。両国の軍事的な緊張が高まり、それどころではなくなったが、実は古くから海州の砂は韓国へ輸出されてきた。
「だから、やりやすいと思ったのかもしれません。水谷さんが着目したのは、そこです。韓国に近いから運びやすかった。そうして海州の海砂を韓国に売ることから始めました。まずは北朝鮮側から1立米1ドルで海砂を買う。その代金のうち北の政府高官に40パーセントのマージンが入る仕組みをつくった。政府高官の個人的な会社との取引として、砂を購入したのです」(同前)
水谷功は、海州の河口から水と砂をいっしょに吸いあげるため、パナマ船籍のポンプ浚渫船を購入し、「水建丸」と「水功丸」と命名する。水建丸は水谷建設の略称であり、「第一」から「第四」まで4隻もあった。水功丸は本人の氏名から命名された船だ。
13倍で売れる海砂
余談だが、水谷が北朝鮮にプレゼントした5台の新車パジェロは、この第一水建丸で運んだという。ところが愛知県豊橋港から出航して間もなく、海上保安庁に不審船として職務質問され、1日停泊せざるをえなかった。結果、300万円の罰金を支払う羽目になったという。先の水谷の北朝鮮ブレーンが続ける。
「1立米あたり1ドルで買った北朝鮮・海州の海砂は、韓国へ運べば13ドルで売れました。実に13倍の取引です。そうして韓国の海砂業者が水洗いして塩を抜き、建設関係のコンクリートに使っていた。日本では海砂はビル建築には使わず、使用目的は埋め立てや基礎工事などに限られていますけど、韓国の建設業界はお構いなし。ほとんどの工事が海砂で用を足すので、需要があるのです。だから、ひところは非常に儲かりました。ほとんど手間賃だけ。効率のいい事業です」
しかも日本に輸出すれば、13倍どころではない。水谷は、将来的に1立米あたり1ドルの砂が30ドルから40ドルになる、と踏んで事業を始めたという。