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森伊蔵の桐箱に仕込まれた“2億2000万円”の札束 石原慎太郎と水谷功「吉兆会談」の関係者証言

『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』より #22

2021/04/19

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 政治, 経済, 読書

note

中部空港建設で吸った甘い蜜

 実際、北朝鮮の砂利を日本の公共工事に利用しようとする動きは、以前からあった。たとえば中部国際空港建設のときもそうだ。1989年、伊勢湾東部沖の設置が決まった中部新空港の建設は2000年に着工される。その着工までのあいだ、ゼネコン各社は北朝鮮の海砂を埋め立て部分に使おうと検討してきた。

「関空の工事で西日本の砂をあらかた使ってしまったので、中部空港の埋め立てのときには、砂が足りなかった。そこで、北朝鮮産を使ってはどうか、となったのです。埋め立て部分なら、向こうの海砂と山砂で十分ですし、いったん輸入ルートができれば川砂も手に入るでしょうからね。それで多くの建設会社が向こうへ視察に行っていました」

 大手ゼネコンの元営業担当幹部(前出)もこう話す。実は当時、そんな動きに対抗して中部国際空港の埋め立て工事を受注しようと手をあげたのが水谷建設だった。三重県にある水谷建設にとっては、隣の愛知県が工事現場となるため地の利もある。ゼネコン営業幹部が続けた。

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「水谷は自分のところが持っている山を切り崩し、中部空港に使ってくれ、と売り込んできたのです。東海地方の業者なので、運搬賃もかからないし、理想的でしょ。それに政治力もある。現に、それで水谷は大儲けしたはずです」

“砂利”は利権の塊のようなものだった

 別の大手ゼネコン幹部が、中部国際空港の工事について説明する。

「そんな中部空港の成功体験があったから、水谷さんは砂の大切さを肌で感じていたのかもしれません。とにかく利権には目ざとい会社ですからね。砂利はまさしく利権の塊のようなもので、そこには政界工作も必要になる。1立米あたり、誰それにいくら裏金を渡すとか、いろいろあるんです。砂は政治力がないとなかなか納入できません。たとえば島根原発の増設工事のとき、北朝鮮から川砂を持ってきたらどうだろうか、という話を計画したことがあった。しかし、島根は自民党の竹下王国でしょ。おまけに北朝鮮は金丸信以来の竹下派の牙城でもあったし、うちは竹下派にパイプがないので、島根原発には一切タッチできずにあきらめました」

 水谷が北朝鮮で真っ先に砂利事業を始めた目的は、日本国内の大きなプロジェクトを睨んでのことだ。ダムや原発など電力工事で急成長した水谷建設が、次なるターゲットとして狙いを定めたのが、日本全国に張り巡らされている空港建設である。かつて関西土木談合の天皇と呼ばれた平島栄に煮え湯を飲まされた水谷建設は、関空の一期工事では、その恩恵にあずかれなかった。