一般には知られていない中堅ゼネコンの社長にもかかわらず、永田町では知らぬ者のいない有名人だった男が、2020年12月17日に帰らぬ人となった。その男の名前は水谷功。小沢一郎事務所の腹心に次々と有罪判決が下された「陸山会事件」をはじめ、数々の“政治とカネ”問題の中心にいた平成の政商だ。
彼はいったいどのようにして、それほどまでの地位を築き上げたのか。ノンフィクション作家、森功氏の著書『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』(文春文庫)より、芸能界でも幅を利かせていた男の知られざる正体に迫る。(全2回の2回目/前編を読む)
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ODA利権
04年5月22日、二度目の小泉訪朝が実現した。そこで、小泉は拉致被害者家族の帰国を取り付けた。そうして日朝双方ともに、ますます国交回復ムードが高まっていく。ピクリとも動かない今の日朝関係からすると、信じられないような展開だ。
戦後賠償を含めた発展途上国の開発援助事業は、その実、日本企業や国会議員利権の温床とされてきた。ODAなど日本政府から拠出された資金でおこなわれる開発事業は、日本側のゼネコンがその大半の工事を受注する。最終的に利益として日本企業の懐に転がり込む仕組みだ。おまけに、利益の一部が裏金化するケースも少なくない。中古重機取引を駆使した水谷建設の裏金づくりも、まさにODA絡みの資金工作である。
いきおい、各界の思惑が交錯し、立場の異なる利害関係者が、その甘い蜜に群がった。開発事業を受注したい商社や開発業者は、援助国政府とのパイプづくりのため、そこに連なる有力政治家に接近する。結果、いたるところで接待攻勢や賄賂が横行してきた。
関係者のだれもが見逃せない大事業
そんな海外の開発事業のなかで、北朝鮮のインフラ整備は、関係者にとって見逃せない大事業だ。日本と北朝鮮の国交が回復した場合、その開発事業は少なく見積もっても1兆円規模といわれる。最終的には3兆円を超える、との予測もある。いわば、日本の開発業者にとって最後に残された大規模開発援助事業といえた。
なかでも国交回復後の北朝鮮のインフラ整備は、商社やゼネコンなど日本の企業が舌なめずりしてきた事業だ。1990年9月、自民党の金丸信が訪朝したあと、北朝鮮は電話通信網が一挙に整備された。そこにNTTの回線が使用され、整備計画全体には日本の商社が深く関与してきた。インフラ整備事業で企業が受注競争に勝ち残るため、事業の先鞭をつけるべく北朝鮮とのパイプ役を探す。そこにさまざまな利権が生まれた。
日朝交渉が盛りあがっていたこの時期、北朝鮮とのパイプづくりに躍起になっていったのは小坂だけではない。大手、準大手ゼネコンの国際営業担当者が訪朝を計画し、話題になったケースもあった。