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2021/04/12

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 政治, 経済, 読書

目くらましのための訪朝情報リーク

「ちょうど拉致被害者の方の帰国が実現したあと、向こうから入国のOKが出たのです。われわれの視察なんて、観光に毛の生えたようなものでした。前年にも視察しているわけだし、その前だったらさほど問題にならなかったかもしれません。それでいて、なぜわれわれだけが批判にさらされてしまったのか。考えてみると、もっと本格的な計画をしているところがあった。それらの目くらましのためにわざと訪朝情報をリークされたのではないか、とさえ疑ってしまいます」

水面下の電力使節団「錦織レポート」

 あまり知られてはいないが、このころ日朝のあいだには、水面下でさまざまな動きがあった。まさに同時期、電力使節団による事業計画まで進行していたのである。

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〈2004年7月 朝鮮民主主義人民共和国への電力使節団派遣記録〉

 表紙にこう書かれた小冊子がある。04年6月29日から7月6日にかけて訪朝したときの紀行日誌だ。表題にあるとおり、日本の電力使節団が作成した詳細な記録である。使節団の団長は、「有限会社錦織技術事務所」代表取締役の錦織達郎という。

 訪朝使節団の団長、錦織達郎は1928年生まれ。52年に東大工学部を卒業後、関西電力に入社したエリートエンジニアだ。85年に子会社の建設コンサルタント会社「ニュージェック」に天下り、長年同社の社長、会長を務めてきた。インドネシアやフィリピン、ベトナムなど、もっぱら東南アジアにおける電力開発事業に携わってきた人物であり、電力業界では、知る人ぞ知るODA開発のスペシャリストである。レポートにあるように、錦織技術事務所代表という肩書きを持ち、発展途上国を飛び歩いてきた。

 ODA開発のスペシャリストによる訪朝の目的は、言うまでもない。関西電力が進める北朝鮮国内の発電所建設プロジェクトである。関係者たちは、小冊子にまとめられたくだんの訪朝日誌を「錦織レポート」と呼んだ。

 02年9月の小泉電撃訪朝から2年近くが経過しようとしていた。表向き、拉致問題を中心に動いていた日朝交渉は、一進一退どころか、完全にこう着状態に陥っているかのように見えたころだ。

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