一般には知られていない中堅ゼネコンの社長にもかかわらず、永田町では知らぬ者のいない有名人だった男が、2020年12月17日に帰らぬ人となった。その男の名前は水谷功。小沢一郎事務所の腹心に次々と有罪判決が下された「陸山会事件」をはじめ、数々の“政治とカネ”問題の中心にいた平成の政商だ。

 彼はいったいどのようにして、それほどまでの地位を築き上げたのか。ノンフィクション作家、森功氏の著書『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』(文春文庫)より、芸能界でも幅を利かせていた男の知られざる正体に迫る。(全2回の2回目/前編を読む)

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枯渇している日本の砂

 国交交渉の楽屋裏で、ゼネコン業界がターゲットにしたのは、ダムや発電所などの北朝鮮国内のインフラ事業だけではない。建設業界が北朝鮮に触手を伸ばそうとしたもう一つの理由、それは朝鮮半島の良質な土砂である。

「コンクリートから人へ」─。

 公共工事の削減をマニフェストにうたった民主党がそうたとえたように、土木工事とコンクリートは切っても切れない。ダムやトンネル、道路や空港にいたるまで、建設工事において最大の原材料がセメント・コンクリートであり、そこには砂や砂利が欠かせない。土木・建築工事のなかでも、いちばん費用のかさむ材料である。

 関空の埋め立て工事しかり、羽田空港の護岸工事しかり。砂や砂利の確保は建設業者にとって工事受注のキーポイントになるといっても過言ではない。ところが、日本の砂はすでにとり尽くされ、枯渇しているのが現状だ。

北朝鮮産の争奪戦

 最も大きな工事の原材料だけに、できるだけ安く、しっかりとした砂はないか、ゼネコン各社は大規模工事になると必ずといっていいほど、砂を求めて奔走する。大プロジェクトのあるたび、砂の争奪戦が繰り広げられてきた。ひいては、それが砂利利権と呼ばれるようになる。

「土木業者が使う砂には、海砂と川砂があります。川砂は塩分を含まないので、コンクリート中の鉄筋をサビさせない。それで、ビルやトンネル工事などに重宝されます。一方、塩分のある海砂は塩抜きをしても、鉄筋を劣化させる恐れがあるので、埋め立ての基礎工事などに使う。こちらは、運搬費用を含めた価格が勝負でしょう。北朝鮮はその両方で魅力があった。日本ではすでに川砂をとり尽くしていますが、山岳地帯の広がる朝鮮半島北部は、山から切り出された砂が川底にたくさん残っている。また、大きな河口付近に堆積される海砂も多く、かなり安い。建設会社はどこも、喉から手が出るほど、北朝鮮の砂を欲しがってきました」

 大手ゼネコンの営業担当幹部がそう解説する。日本と同じような丘陵山岳地帯が国土の大半を占めるからこそ、北朝鮮には川砂や海砂が豊富にある。建設業界のなかでも、そんな北朝鮮の良質な砂に、真っ先に手をつけようとしたのが、水谷建設である。

「他の会社もそこに目をつけてはいたのですが、なかなか本格的な事業までにはいたりませんでした」

 水谷功の北朝鮮ブレーン(前出)が振り返る。