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森伊蔵の桐箱に仕込まれた“2億2000万円”の札束 石原慎太郎と水谷功「吉兆会談」の関係者証言

『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』より #22

2021/04/19

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 政治, 経済, 読書

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石原慎太郎「吉兆会談」の狙い

 そんな水谷建設が中部の新空港で大儲けし、次に狙ったのが、羽田空港第4滑走路の拡張工事だった。2010年10月のオープン予定だった4本目のD滑走路の埋め立て工事である。北朝鮮における砂利事業は、水谷が羽田空港の工事に向けた準備でもあった、と先の水谷のブレーンが改めて話す。

「韓国は工事にほぼ100パーセント海砂を使うから、まずは韓国の輸出で儲け、北朝鮮ルートを確保しておく。そうして羽田の入札が始まったら、それに合わせて日本へ北朝鮮産の砂を持ってこようという計画でした。これまで東日本の工事ではあまり海砂を使わなかったけど、海砂も必要になると考えた。加えて、埋め立てのときに初めに使う捨て石を清津から持ってこようという話までしていた。清津は、日本海側の北朝鮮の都市で、ロシアとの国境に近い港町です。そこから新潟経由で羽田まで捨て石を持ってくる。水谷会長はそんな大きな計画を立てていました」

 これが北朝鮮における最終的な砂利事業の狙いだった。そしてある水谷建設関係者は、次のような後日談まで披露する。

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©文藝春秋

「水谷会長が石原慎太郎都知事と料亭で宴席をもうけ、いっとき評判になったでしょ。あのとき会長は、三男の宏高氏の選挙応援をし、その祝勝会として、料亭『吉兆』で一席持ちました。その宴席は羽田の工事を受注するためのご機嫌伺いのつもりだったのです」

宴席を仲介した糸山英太郎

 話題になった05年9月の石原家と水谷功の「吉兆会談」のことである。宴席は、石原と親しい糸山英太郎が仲介したとされ、糸山本人も上機嫌で顔を出した。糸山は右翼の大立者として知られる日本船舶振興会(現・日本財団)創設者の笹川良一の姪婿であり、ゴルフ場経営で財を築いた。身長150センチあまりと小柄だが、ひと一倍のバイタリティがある。石原の後押しもあり、自民党から参院選に出馬して当選し、国会議員経験を持つ。糸山政経塾の塾長として、若手経営者たちを集めセミナーを開いていた時期もある。

 一方、水谷も糸山を知らないわけではない。カジノ仲間だ。

 当のカジノ仲間の1人が、ふたりの仲を説明してくれた。

「水谷会長は、糸山さんの還暦祝いもやっていますよ。韓国のパジチョゴリをあつらえ、還暦衣装にした。会長がそこに彼の糸山政経塾のロゴマークを入れ、プレゼントしていました。あのとき糸山さんは芸者にキスされて上機嫌でしたね」

 石原慎太郎との宴席の仲介を頼んだのは、そんなふたりの関係があるからだろう。形の上で宴席は、糸山が主催したことになっているが、事実上は水谷の仕掛けだ。三男の当選祝いとして開かれ、そこへ水谷が顔を出す手はずになっていた。