科学捜査の発達した現代では、警察の事件捜査能力は飛躍的に向上した。警察庁の「犯罪統計資料」の中の殺人事件の件数をみれば、2007年から2016年の10年間の認知件数1万567件に対し、検挙数は1万288件と約97%だ。
逆にいえば、今日でも尚、3%ほどの事件が「未解決」になっている。殺人など凶悪犯罪の時効が廃止されて早11年。事件の風化を防ぐため、実際の現場を新たに訪れ再検証を行ったロングセラー「迷宮探訪」(警視庁元刑事・北芝健監修、「週刊大衆」編集部編、谷口雅彦撮影:双葉社2017年刊)より、一部を抜粋して引用する。
今回は2008年、京都府舞鶴市で起きた「舞鶴高1女子殺害事件」について。現場からは性別さえ分からない、あまりに痛ましい遺体が発見されたこの事件。捜査線上に浮かび上がっていたのはどんな人物だったのか……。
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疑われた男たち
犯人の痕跡が一切ない中、犯人の捜査は非常に困難なものとなったが、すぐに何人かの人物が浮上した。最初に疑われたのはKさんと親しかった10代の少年だったが、すぐにアリバイが判明する。その後、現場の近くに住む、当時60歳のNという男の名前が挙がり、2008年11月に逮捕されたのだが、その容疑は窃盗罪。女性の下着や神社の賽銭を盗んだ疑いというものだった。つまりKさんの殺害容疑では立件できず、“別件”での逮捕だったのだ。
――N元被告が住んでいたという府営住宅は、遺体発見現場から数百mのところに現在もあった。築数十年は経っているであろう2階建ての集合住宅だ。その区画から道を挟んですぐ西側は、新しい分譲住宅が建ち並んでいる。Kさんが住んでいたマンションは、ここと同じ町内だったそうだ。新興の住宅地の中に1棟のマンションが建っているが、そこのことだろうか。府営住宅とは目と鼻の先だ。
スキンヘッドだったことから、近所の子どもたちからは“ハゲタカ”と呼ばれていたというN元被告は、地元では奇怪な行動をすることで有名だったという。彼はガラクタを集める習慣があったらしく、近所を徘徊して粗大ゴミを漁り、家の中も外もゴミだらけだったというのだが、そのガラクタの中には工具や鉄パイプも散乱しており、彼は日頃から、それらを持って近所を歩き回っていたと、周辺の住民が証言している。犯行に使われた凶器がバールのような鈍器だと推測されていることから、この点も逮捕の際に重要視されたのだろう。