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 確かに、発生当初の目撃証言は、Kさんらしき女性と一緒にいたのは若い男だというものだったが、次第にN元被告に似ていたというものに変わっていった。

「夜中にすれ違っただけで鮮明に顔を覚えられるかな。人間の記憶は曖昧ですからね。刑事に“この人じゃない?”と、捜査線上に浮上したNの写真を見せられたら、誰だって“そうだったかも!?”って思い込んでしまうものです」

 実際には、どの程度はっきり見えるものなのだろうか。目撃証言の信憑性を確かめるため、我々も夜の舞鶴を歩いてみることにした。

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慎重だった司法の判断

――日没後の、彼女がたどったと思われる道は想像以上に暗かった。ガソリンスタンドや薬局があった国道27号線は、まだ交通量も比較的多く、一部の開けた地点では街灯や店の照明もあったが、大都市の繁華街のような明るさではない。そして、国道をそれて府道に入ってからは街灯も減っており、そこはカメラのシャッターもうまく切れないほどの暗さだった。すれ違う人の顔をはっきり覚えられるようなものではない。ましてや、それが見知らぬ人物だったら、なおさらだろう。

Kさんが友人に電話をしたといわれるドラッグストア前(昼) ©谷口雅彦
Kさんが友人に電話をしたといわれるドラッグストア前(夜) ©谷口雅彦

「歩いている2人がいたことは確かですし、映っている服装や背格好と、その晩に行方が分からなくなっていた点から、女性のほうがKさんであることは間違いないでしょう。ただ、こんなに暗くては、一緒にいた男がNだと断定できる目撃証言とはならない。仮に目撃者が不審に思って車を徐行させて注視していたとしても、この暗さでは、裁判所が証拠と認定することはないでしょうね」

 物証もなければ、防犯カメラの映像や目撃情報も決め手にならない。これでは証拠不十分で無罪になるのも必然と言えるだろう。だが、状況証拠のみで死刑判決が下った和歌山毒物カレー事件(註2)などの例もある。