1ページ目から読む
3/5ページ目

弁護人立ち会いの下で行われた家宅捜索

 状況証拠は揃った。だが、事件と彼を結びつける決定的な物的証拠がない。それを押さえるべく、警察は家宅捜索に踏み切った。

 しかし、この家宅捜索は極めて異例な状況で行われた。N元被告はこのとき、窃盗容疑で勾留中だったことから、家宅捜索が不当であると主張した彼の弁護人が、捜索令状の取り消しを求める準抗告を申し立てたのだ。その結果、家宅捜索は弁護人立ち合いの下で行われることになった。

 それによって捜査には、どのような影響があるものなのだろうか。

ADVERTISEMENT

北芝健氏 ©谷口雅彦

「袴田事件(註1)の物証が“捜査機関によって捏造された疑いのある証拠”と裁判で判断されたことからも分かるように、昔はそういうこともあったかもしれないが、通常は、別に何かを隠すとか、証拠をでっち上げるなんてことは、まずありません。だから、やましいことなんてないんですが、監視され、手の内をさらさなければならない中での捜索は、やはり非常にやりづらいものです。自然と捜査が及び腰になることもある」(北芝氏=以下同)

 押収物は約2000点に上り、その中に現場の土の粒子や、被害者の衣服の繊維痕が残ってはいないかというレベルまで調べられたが結局、犯人につながる証拠は出ず。殺人容疑での逮捕には賛否で意見が分かれたが、状況証拠とビデオの鑑定結果を頼りに、警察は2009年4月にN元被告の再逮捕に踏み切った。

 しかし、逮捕された彼は容疑を否認し、無罪を主張。その裁判は、一審で無期懲役の判決が下るも、二審で一転して無罪判決が下る。そして14年7月に上告が棄却され、無罪が確定したのだ。

最初の防犯カメラに映っていたガソリンスタンド前(昼) ©谷口雅彦
最初の防犯カメラに映っていたガソリンスタンド前(夜) ©谷口雅彦

目撃証言の信憑性

 検察側の唯一の頼りだった防犯カメラの鑑定結果は、映像自体がかなり不鮮明だったため、証拠不十分となったのだ。しかし、もう一つの手がかりであった、似た人物を見たという目撃証言は決定的な証拠にならないのだろうか。

「警察の捜査でも本来、目撃証言はそれほど当てにしないものです」