「大変な仕事」と「楽しい仕事」は表裏一体
ぼくは、あくまでMTVの「日本支社」の社長で、MTV全体の最高責任者ではありません。だから、なにをやっても本社から口出しされるし、一方で社員からも突き上げられる。本社と社員の板挟みになる立場なわけです。だからたまに「ゼロから起業したほうがいいんじゃないか?」と聞かれることもありました。
たしかにいつも大変な思いをしていましたが、それでもMTVでの仕事は楽しかったんですね。ぼくは「大変な仕事」と「楽しい仕事」は、表裏一体だと思っています。社内の調整や難しい交渉をしないといけないこともあるけれど、一方で感性を刺激されてワクワクすることもたくさんある。
裏では胃の痛くなるようなこともたくさんありますが、「アンプラグド」などの作品が出て、「カッコよかった」とか「聴いてよかった」という声をいただくと、ものすごくやりがいを感じましたし「人のためになっているんだな」と思えました。大変な仕事であればあるほど、それが実ったときにすごく楽しさを感じるわけです。
「誰かの描いた夢」を実現していく面白さ
もとをたどれば、ツイッターも、マイクロソフトも、MTVも、ぼくではない「誰かの描いた夢」です。
そういう「誰かの描いた夢」を実現していくことが、ぼくは楽しいんです。だからこそトップである経営者の人間性は、ぼくにとってすごく大切で、「この人を成功させたい」とか「このブランドを成功させたい」と思うと、すごく燃えるんです。
経営者の人間性に惚れ込んで、その人の夢を実現するためにがんばる。
それはMTVのCEOだったトム・フレストンの場合も、Twitter社のCEOであるジャック・ドーシーの場合も同じです。二人に共通しているのは、こんな世界にしたい、サービスでこういうことを実現したいという「共感できるビジョン」を、揺らぐことなく持っていることです。
たいていの経営者は「売上がどうこう」「株価がどうこう」といったことで判断が変わったりします。でも、彼らにはそういうことがまったくない。だから「この人についていこう!」という気持ちにさせられるんです。
そういった経営者の性格とかチャーミングさは、ぼくにとってはそのまま「会社の魅力」になります。これまで転職してきたなかでも、ぼくはかならず「人」を見ています。その会社の経営をするのは、どういう人たちなのか? どういう仲間と仕事をするのか? それが、自分にとってすごく大きな判断基準になっているのです。
構成=竹村俊助 @tshun423
写真=佐藤亘/文藝春秋