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「日本版の『アンプラグド』をやろう」

 MTVブランドの看板番組である「アンプラグド」の日本版をやったときも大変でした。

 第1回のゲストでお呼びしたのは宇多田ヒカルさん。

 詳しくはお話しできませんが、出演の交渉はやっぱりすごく大変でした。内容にもすごくこだわって、お金的にも「これで採算とれるのかな?」というレベルでした。

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 ただ、それは「戦略」でもあったんですね。初回に大物に来ていただくことで、音楽業界に「アンプラグド」というブランドを築く。そしてアーティストの方々に「いつかは自分も『アンプラグド』でやりたい」と言ってもらえるようにしたかったんです。

 MTV本社との交渉も大変でした。「アンプラグド」というのはもともとアメリカのMTVで生まれた企画です。それを日本に持ってくるためには、商標権を持っている人に許諾をもらわないといけません。

 MTVのブランドを傷つけてはいけないので、「誰を最初にやるのか」「なぜその人なのか」といったことをきっちり説明する必要がありました。そうやって裏でさまざまな交渉をして、やっと撮影当日を迎えることができたのです。

「アンプラグド」は、観客も入れてライブ形式でやるので、本来はワンテイク。でも実は、宇多田ヒカルさんのときはツーテイク撮っているんです。

 

 ライブが終わったときに観客席から「もう1曲歌って」という声があがりました。そのとき宇多田さんはハッと我に返ったような表情になって「全曲、もう1回歌います」と言ったんです。それでツーテイク目を撮ることになった。すると、まったく迫力が違ったんですね。番組でも2回目のほうが放送されました。

 結果的に「もう1曲歌って」と言った観客のおかげで、素晴らしいライブを撮ることができました。ただでさえ大舞台の本番。現場の空気はピリピリしていますから「もうワンテイクお願いできますか?」なんて、誰も言えません。あの観客の声があったからこそ、すばらしい第1回目の放送ができ、その後に続く回もいいものになったのだと思います。

マイケル・ジャクソンの出演 

 2006年には、マイケル・ジャクソンを番組に招聘しました。

 実はこのときも本社からすごくお叱りを受けたんです。

 理由は、彼が幼児虐待の疑惑でアメリカですごく叩かれた後だったこと。「なんでそんな人間をMTVジャパンが勝手に招聘して、MTVの冠であるビデオ・ミュージック・アワードに出すんだ」と、ぼく自身初めて「これは自分の立場が危ういな」と思うくらいの勢いでした。

 でも、結果的にはすごくいい映像が撮れました。マイケル・ジャクソンの過去の映像を流すときは、そのときの映像が伝説として必ず使われるほどです。