「え、軽自動車? あなた、もう立派な大人でしょ?」

 祖母の葬式で、久々に会った叔母からそんな言葉をかけられた。車にステータス性を求める人間からすれば、軽自動車など「まともな社会人の乗り物」としてはありえないのだろう。そういう叔母の兄は、葬儀場入り口の一番近くに、10年落ちの真っ赤な輸入オープンカーを駐めていた。

 個人的な話はさておき、「軽自動車は貧乏人の乗り物」というイメージは、軽自動車が200万円を超えることがザラになった今もなお根強く残っている。

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「軽の白ナンバー」に対する反感

 それを象徴するのが、軽自動車の「白ナンバー」に対する世間の反応である。2017年10月から、東京オリンピック・パラリンピックを記念するナンバープレートが交付され、軽自動車であっても申請すれば白いナンバーを付けられるようになった(2021年9月30日までの受付)。

 軽自動車を「格下」として扱いたい者にとっては、軽に「貧乏人の烙印」たる黄色ナンバーが付いていないのが気に食わないのだろう。Googleの検索窓に「軽 白ナンバー」と打ち込むと、「うざい」「ダサい」「むかつく」といった単語がサジェストされる。「貧乏人は貧乏人らしく黄色ナンバーを付けておけ」という本音が透けて見えるようである。

©iStock.com

 しかし実際のところ、「軽=貧乏」というイメージは、もはや古い価値観でしかない。もともとの取り回しのよさに加え、走行性能や安全・快適装備、車内空間などあらゆる面が著しく向上した現在の軽自動車は、デイリーユースを主とするユーザーにとって「もっとも合理的な選択肢」になりうる存在だ。

「軽=貧乏」は成り立たない

 そもそも、「軽自動車に乗っているのは低所得者である」という認識自体が、現実を正しく捉えたものではない。厚生労働省が2019年に発表した国民生活基礎調査によれば、世帯年収の平均値は552.3万円であり、中央値は437万円 。対して、「一般社団法人 日本自動車工業会」が2020年に発表した「軽自動車の使用実態調査報告書」を見ると、軽自動車所有者における世帯年収の中央値は527万円(平均値は未発表)である。

 所得分布で比べてみても、軽自動車を所有する世帯が低所得であることを示す要素は読み取れない。

世帯年収の分布図 筆者作成

 1000万円以上の世帯は3%ほど少ないが、400万円未満の割合も少ない。400万~1000万円未満までの階層においては軽所有世帯が上回っていることをふまえれば、軽自動車はむしろ「中流層の経済状況に見合った車」ということになりそうである。