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「軽は危険」は本当か

 ここまで、軽自動車がいかに合理的な乗り物であるかを述べてきた。けれども、軽自動車を選ぶ際の懸念事項として、「衝突安全性」というポイントを無視するわけにはいかない。

 軽自動車が「事故の際に乗員を守れない」というイメージは、以前から広く定着している。昭和から平成にかけて、旧規格の軽自動車のことを「走る棺桶」などと揶揄する風潮もあった。現在、軽自動車はそうした汚名を返上できているのだろうか。

「独立行政法人 自動車事故対策機構」が実施する衝突安全性能アセスメントの結果を見ると、軽の現行モデルは概ねコンパクトカーと同程度の水準に達していると言ってよさそうだ。N-BOXやN-WGN、デイズといった車種は最高評価の5つ星を獲得している。4つ星評価に留まる車種も多いが、それでもアクアやルーミー、シエンタといった普通車の売れ筋モデルと同等のスコアを記録している。

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「今の軽は安全」とも言いがたい

 かといって、「今の軽は安全」と断じることもできない。先の衝突安全性試験の内容からは、「速度のある対向車と正面衝突した際にどの程度被害が出るか」はわからない。車重の軽い軽自動車が、重量のある車とぶつかった時に大きなダメージを受けやすいことは、物理的に覆しようがない。

 もう一点、同試験では確認できないのが、「追突された際の後席の安全性」である。小さな車体をギリギリまで居住スペースに充てた軽自動車は、リアハッチと後部座席との隙間が極めて小さいがゆえに、追突された際の後席乗員へのダメージが懸念される。

 総じて、軽自動車の衝突安全性能は向上してはいるものの、試験の対象とはならない領域での安全性には不安が残る。

「普通車だから安全」なわけでもない

 とはいえ「測っていない部分がわからない」というのは軽自動車に限った話ではない。「軽は危ないから絶対に乗らない」というのであれば、ミニバンの3列目にも乗るべきではないし、車重1トン程度のコンパクトカーにも乗らない方がよいだろう。

 あくまで相対的なリスクの程度と、現実的な利用状況を照らし合わせながら選択することが重要だ。そのうえで、生活圏の移動が主な用途となれば、軽自動車はこれ以上ない相棒となってくれるはずである。

 さらに、いずれEV化が進めば、軽自動車のサイズでも衝突安全性が大きく向上するかもしれない。部品が少なく設計の自由度が高いEVは、衝突安全性テストで優秀な成績を残しており、小さな車でもクラッシャブルゾーンを確保しやすいと考えられる。

 小さくて軽いという特性が、明確な「価値」として定着するのはいつだろう。もしその日が来ないのであれば、SDGsなど嘘っぱちである。