2020年3月、新型コロナウイルスの感染拡大により、東京五輪の開催延期が決定した。あれから1年。さまざまな問題が解決されないまま、開催まで3か月を切った。

 やりがい搾取に非難が集まった無償ボランティアから、東京五輪の核心に迫った『ブラックボランティア』(角川新書)には、問題の背景がわかりやすく解説されている。ここでは、ノンフィクション作家の本間龍氏が著した同書を引用し、東京五輪の“カネ”にまつわる話題について紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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公益事業ではなく「巨大商業イベント」である

 最初に東京五輪とは開催費において夏季五輪史上、最大規模であり、巨大な商業イベントであることを確認したい。なぜ「商業イベント」であることを確認するのが重要かといえば、それこそがボランティアという無償行為の精神とまったく相反するものだからだ。

 2016年9月、東京都の調査チームは東京五輪の総経費がついに3兆円を超える見込みであることを明らかにした。

膨れ上がる東京五輪の総経費 筆者作成

 13年1月の招致ファイルに掲載されていた7340億円の実に4倍以上、前回、前々回と比べても倍以上となっており、通常の商業行為ならとっくに破綻している金額である。さらに、開催延期と新型コロナウイルス対策で、2940億円追加された。しかも現状で組織委が負担するとしているのは7000億円ほどなのだから、杜撰な計画による失敗を国民の税金で尻しり拭ぬぐいさせようとしているとしか言いようがない。

過去開催の五輪に比べて倍以上となった東京五輪の総経費 筆者作成

 このとてつもなく巨額の費用を必要とする五輪を支えるのが、

(1)テレビ放映権料

(2)スポンサー協賛費

(3)チケット販売

(4)税金

 である。

 際限のない予算膨張という状況の中で、唯一順調なのがスポンサー企業集めである。過去のロンドン、リオ五輪のスポンサー企業がそれぞれ14社、19社(サプライヤー企業を除く)であったのに対し、東京五輪は2021年4月には81社に達しているからだ。

 これを可能にしたのは、過去大会まで金科玉条とされていた「一業種一社制度」の撤廃である。スポンサー企業の権利とはオリンピック・エンブレムの使用権であり、各社はそれぞれの宣伝活動でエンブレムを使用し、自社が五輪に協賛していることを発信できる。

 そのエンブレムの使用価値を最大限に高めるために、前回のリオ五輪まで協賛企業は一業種一社までと厳格に決められていた。例えば車業界で言えば、トヨタが協賛社になれば、他社はもう協賛することができなくなるという仕組みだ。

 これはマーケティング的に言えば至極当然のことだ。ブランドイメージ戦略とは自社こそが最高、他に並ぶ物がないという存在を目指すのであって、世界でたった一社に五輪エンブレム使用権を付与するというIOCの戦略は、ブランド価値の最大化を図る優れたものだったと言える。