東京五輪を巡っては、これまでにさまざまな問題が噴出してきた。何より深刻なのは、新型コロナウイルスだ。国内では沈静化の兆しはなく、ワクチン接種も諸外国から大きく遅れをとっている。世論調査でも中止・再延期を望む人が8割を超えており、大会が無事開催されるかどうかはいまだ不透明だ。

 ここでは、ノンフィクション作家の本間龍氏による『ブラックボランティア』(角川新書)を引用。やりがい搾取に非難が集まった無償ボランティアから、東京五輪の問題の核心に迫る。(全2回の2回目/前編を読む)

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「やりがいPR」で再び炎上

 2018年5月22日、以下のNHKニュースが話題になった。

 五輪組織委員会は、ことし3月、8万人を募集する大会ボランティアについて、1日の活動時間が8時間程度で交通手段や宿泊場所は各自が手配し、費用も自己負担とするなどの募集要項案を公表したが、ネット上では「こんな条件ならやりたくない」といった批判の声などが上がっていた。

  こうしたことを受けて、ボランティアの在り方などを有識者が検討する初会合が都内で開かれ、会議では「募集にあたってはボランティアのやりがいをわかりやすくPRしていくことが必要だ」といった意見が出された。

 語るに落ちるとはこのことではないだろうか。待遇面が劣悪であるとして批判が高まっているのに、その批判を横に置いて「やりがいPRを強化せよ」とはどこまで見当はずれなのか驚いてしまう。PRするのにも億単位の費用がかかるのだから、そんなことをするよりも交通費や宿泊費を支払う方がいいに決まっている。

 しかも、そのPRを実施するのがまたしても電通である。五輪で巨額の利益をあげる企業が人々に無償で働くことの重要さを説くとは、ブラックジョークとしか言いようがない。案の定、ネット上では「ボランティアには一銭も払わないのに、電通には億単位のPR費を払うのか」という批判が渦巻いた。

 この報道には続報がある。5月28日の共同通信は、「ボランティア検討委員会」の第2回会合で、「ボランティアの自宅や宿泊先から活動場所となる競技会場などへの交通費は組織委が支給すべきだとする提言をまとめた」と報じた。この有識者会議も、さすがに世論の批判を無視できないと考えたのだろう。その後、交通費として1日あたり1000円の支給が決まった。