「年よりのいうことを聞くのよ」
「西瓜(すいか)」とか「野苺(のいちご)」なんていうのは、ローズ色できれいです。世界中の珍しいナッツの入ったものや、チョコレートの小さいかけらが混っているのも私は好きです。
どんな味かを試すために、四つもコーンに入れてもらって両手で受けとったとき、お婆さんが入ってきて「お嬢ちゃん、それ全部一人でたべたら、お腹をこわしますよ」といいました。私はお嬢ちゃんでもないし、四つ全部まるまるたべる気はないし、たべたところで、こわれるようなお腹でもないし、と思ったけど「はい」といいました。
お婆さんは満足して「年よりのいうことを聞くのよ」といい、続けて「これをたべると、太る太ると思いながら、この店の前を素通りはできないじゃないの。貴女は何を買ったの?
風船ガムに、マンゴウとメロンのと、ブランディと西瓜。どれもいいわね。ちょっと、お兄さん。(カウンターの後ろのお兄さんを呼んで)あなたの推薦するのはどれ? この間のヤツ、ものすごく気にいったけど、今日はね……」と永久に続くので、私は彼女にお別れをいって外に出ました。
4つの味をかわりばんこにナメナメ裏通りを歩いているとき突然「アイスクリームって、もうせんたべたことがあるわ。どんな味かっていうとね、甘くて、冷たくて、口の中でとけるのよね」と、アメリカの空襲をさけるため、真っ暗な防空壕の中にしゃがんで、大豆の煎ったのをかじりながら、友だちと話をしてた小さかった私が、目に浮かびました。私の手に持っているこれを、あのときの私にたべさせてやったら、何ていったかな? と考え、生きていて本当によかったと思いながら、私はアパートに帰ったのです。