文春オンライン

「コロナは風邪か」や「処理水は汚染水か」をめぐる、深遠な争い

昨今いろんなところで政治VS科学の不毛な争いが勃発

2021/04/23
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「政府や東京電力のやることだから信用できない」というコメントも

 ところが、ここで処理水を「放射性汚染水」としたうえで、福島周辺の農業や漁業に対する「風評被害がある」ということで処理水の海への放出に反対する人たちが出てきます。科学的には問題ないレベルまで処理された水を放流するのに、汚染水を放出するのは風評被害だと報じるマスコミ自体が非科学的な言説で福島の復興の足を引っ張っているとも言えます。

 ヤフーニュースで時事問題の記事を見ている方々では「菅義偉政権の原発処理水の海洋放出決定」に賛成が58%、反対が39%となっています。そもそもこの方面のニュースに知的関心のある人で、ヤフーの投票に回答するぐらいには暇人で、菅義偉さんや自民党に対して好感反感ある態度も加味したうえでおおむね賛成が6割弱というのは、まあまあ国民のコンセンサスを得られたというべきなのかどうか。

©iStock.com

 そして、これらの一連の報道を見てなお、「この問題に対する説明が不足している」とか「議論が熟していない」などという反応が多いことにも気がつきます。さらには「政府や東京電力のやることだから信用できない」というコメントも見られます。

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 健康に問題ない状態まで充分に薄めた後の処理水を海洋に放出する、有害な放射性物質は除去する、という説明を受けても「説明不足だ」と言える人の気持ちまでは理解できませんが、科学的にはもはやこれ以上説明のしようもないのかなとも思います。

大量のトリチウムを海洋放出している中国や韓国に言われたくない

 翻って、国際機関のIAEAや、アメリカなどは日本の処理水海洋放出に賛成の立場を明確に表明する傍ら、お隣の韓国や中国では「日本は海を汚している」と声高に日本政府の決定に反対しています。日本よりもはるかに大量のトリチウムを放出している中国や韓国に言われたくない話ですし、中国も報道官が麻生太郎さんに対し「飲んでみろ」とか「海は日本の下水ではない」などと放言し、麻生太郎さんも「海は別に中国の下水でもねえだろ」という放言の応酬になるぐらい、トリチウム処理水の海洋放出について科学的根拠抜きの政治的問題となって論争が続きます。

 コロナは風邪だとか、マスクやワクチンの効果の是非にせよ、福島第一原発事故処理におけるトリチウム処理水の海洋放出にせよ、安全性に対する科学的根拠や効率、合理性は抜きにして、それを進めようとしている人たちの顔つきや属性を見て賛成反対を決める人がいかに多いかの証左なんじゃないかと思います。確かに、東京電力や旧原子力安全・保安院、また当時の菅直人・旧民主党政権はごまかしや嘘が多かったと否定的に捉え、だから政府や東京電力などの大企業は信用できない、だから処理水を放出することも地域住民の健康や漁業などに対する悪い影響を隠していてもおかしくない、というロジックになります。