文春オンライン

「コロナは風邪か」や「処理水は汚染水か」をめぐる、深遠な争い

昨今いろんなところで政治VS科学の不毛な争いが勃発

2021/04/23

10年経って少しは原子力発電界隈は復活しているかと思いきや

 大阪府知事の吉村洋文さんが、大阪独自の対策にこだわって突然アンジェスとかいう微妙な製薬ベンチャーがぶち上げたワクチン開発計画にうっかり乗ってしまい、規模の経済が生み出す科学力の前に立ち往生したのもいい思い出です。

 仕組みが悪いので大きな問題を引き起こして、その負担を国民みんなで泣きながら分かち合い、一緒に不幸で貧乏になっていくシステムは、10年前の東日本大震災での津波にともなう福島第一原発事故でもあますところなく日本人は体験しました。事後的に「絆だ」「支え合いだ」と言っていましたが、要するに日本の原子力発電という危険だけど便利な仕組みを安全に管理監督する仕組みが破綻していて、いざ津波がきたら東京電力の対応が急所となって原発が爆発し、その結果起きた悲惨な事故対応でかかる巨額のおカネを東京電力が補償する。といっても原賠法もあって結局は国がどうにかすることになり、その国は税金によって支えられているので、原発事故対応費用分の増税という形で国民がみんなで負担することになっているわけですよ。

 10年経って少しは原子力発電界隈は復活しているかと思いきや、日本の原子力発電の一部を担っている東芝では、社長の車谷暢昭さんが更迭されてしまいました。なんだったんでしょう、あれは。

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 誰に騙されたのか知りませんが、環境大臣の小泉進次郎さんは二酸化炭素を出さない「脱炭素社会」を掲げていますが、山ばっかりで太陽光発電を担える立地が乏しく通年で強い風が吹く洋上風力発電に適した地域も少ない日本で再生エネルギーを増やすのはまだまだコスト的に見合わず、二酸化炭素を排出しない原子力発電に頼らなければならない状況で政策的な矛盾をどうにか解消して前進していかなければなりません。

処理水の海洋放出...まだそんなことで揉めていたのかと

 そこへ、降って湧いたのが福島第一原発の事故処理にともなうトリチウムなど放射性物質を含む汚染された排水を処理して、希釈化した処理水として海に放出することの是非であります。10年経過してまだそんなことで揉めていたのかと驚くわけですけど、いままでは政治的に決断できなかったから、ずっと処理水を貯めていたわけですね。

 そもそも、原子力発電所の廃炉というものは、事故だろうが計画的な老朽炉の交換だろうが、基本的には水で洗い流して処理するものです。原子力発電所の稼働中も、世界中で環境的に問題ないレベルまで処置された処理水を自然に返すことは行っています。だから、それに対して基準が世界的に作られ、健康管理ができるぐらいのモニタリングもやっているわけですよ。IAEAなどという世界的に融通の利かない忖度なし機関まで存在し、きちんと監視をされる仕組みは曲がりなりにも整っています。