2019年の4月時点で、全国に刑務所は61カ所、少年刑務所は6カ所。その中で生活する男性受刑者は4万156人、女性受刑者は3564人だという。

 窃盗、薬物事犯の高い再犯率や外国人受刑者の処遇など数多くの問題を抱える現代の刑務所だが、社会全体の問題と並行するように、受刑者の高齢化も大きな問題になっており、60歳以上の受刑者は実に20%を超えているという。

 そんなまさに「社会の縮図」である刑務所の現在について『塀の中の事情』(清田浩司)より、一部を抜粋して引用する。

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まるで高齢者施設

 大阪・堺市の市街地の真ん中に位置する“西日本最大”の大阪刑務所。関係者の間では略して「ダイケイ」と呼ばれる。ここにも再犯や暴力団関係の受刑者などおよそ1800人が収容されている。取材した当時(2017年)、最高の服役回数は35回目という人生のほとんどを塀の中で過ごしている受刑者もいた。

高齢化問題は刑務所の中でも起こっていた(写真はイメージ) ©️iStock.com

 工場での刑務作業を見ると他の刑務所とは少し違った運用をしている。大阪刑務所では刑務作業が受刑者の状態によってA、B、Cと3つのタイプに分けられているのだ。中には小さなスプーンの袋を外したり、ナプキンを折るだけという簡単なものもあった。いったい、西日本最大の刑務所で何が起きているのか、紹介していきたい。

 午前6時50分。大阪刑務所の一日が始まる。起床時間の様子を見ると、ある一角に少し様子が違う受刑者たちの姿があった。

 刑務所では布団やシーツのたたみ方、置き方に関して細かいルールがあるのだが、起きてから十数分経っても一向に布団やシーツがたためないでいる者がいる。何をするにしても非常に動作が遅いのだ。中には外国人受刑者の姿があったが、他の受刑者が身支度を整え、すでに部屋の掃除を行っているにもかかわらず、着替えすら終えていない。神経質なのか丁寧に毛布をたたんでいて一向に着替えようとしない。

 職員が部屋を見回り、早く着替え、部屋の掃除をするよう再三促す。

 どうにか、着替えを終え、部屋の掃除を済ますと刑務官が「気をつけ!」と号令をかけ朝の点検が始まる。施錠されているか、受刑者たちが自分の部屋にいるかを刑務官が二人一組になって確認していく。

「61室、点検! 1名」

「1名」

 朝点検が終わると、朝食の時間だ。この日の献立はレーズンパンにマーガリン、紙パックのコーヒーという簡単なもの。配られるとすぐに食べ始めるが、ここでも奇妙な光景が繰り広げられていた。

 70代の受刑者が飲んでいたのは、洗面台から汲んできた大量の水だった。一気に飲み干すと、その器をなぜかテーブルの上で回し、それが終わると、服の下からタオルを取り出し、汗もかいていないのに、熱心に顔を拭き始める。実は今、刑務所内でも彼のように著しく動作が遅く、認知症のような症状を示す受刑者が増えつつあるという。高齢者施設のように見えるがここは塀の中だ。

 朝食を終えると出室だ。受刑者の部屋の扉が開き、刑務作業を行う受刑者が一斉に工場へと向かう。最初に出てきたのは、車椅子に乗った受刑者。移動に時間がかかるということで先に移動する。中には松葉杖をついている受刑者もいる。