昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

スプーンでの食事が精一杯、受刑者が受刑者を“老老介護”…刑務所が直面する「高齢化問題」

いま刑務所で何が起こっているのか 広島・尾道刑務支所編 #1

2021/05/08

genre : 社会

 2019年の4月時点で、全国に刑務所は61カ所、少年刑務所は6カ所、その中で生活する男性受刑者は4万156人、女性受刑者は3564人だという。

 窃盗、薬物事犯の高い再犯率や外国人受刑者の処遇など数多くの問題を抱える現代の刑務所だが、社会全体の問題と並行するように、受刑者の高齢化も大きな問題になっており、60歳以上の受刑者は実に20%を超えているという。

 そんなまさに「社会の縮図」である刑務所の現状について『塀の中の事情』(清田浩司)より、一部を抜粋して引用する。(全2回の1回め/#2を読む)

◆◆◆

全国でも珍しい高齢者対応の刑務所

 刑務所内の体育館である行事が始まろうとしていた。白髪が目立つ高齢受刑者ばかり数十人が椅子に座って待っている。すると、そこにギターを持った男性が現れる。いったい何が始まるのだろうと思っていると男性が挨拶を始める。

「それでは始めます! 音楽の力でストレス解消、みなさん健康になっていただきます! オープニングソングを歌いますので、手拍子して応援してください! それでは手拍子!」

 と元気よく叫ぶと80年代に流行った松村和子の「帰ってこいよ」を歌い始める。受刑者に「早く社会に帰ってこいよ」というメッセージなのだろうか。

 歌が終わり、「ありがとうございました、拍手!」と男性が言うと、「いやー!」と受刑者が叫びみんなで両手を挙げ、万歳をする。続いて「幸せなら手をたたこう」を歌う。受刑者も歌詞に合わせ手をたたいたり、足踏みをしたりする。そしてまた歌い終わり男性が「拍手! ヤー!」と言うと受刑者全員が「ヤー!」と叫ぶ。この後、手を振りながら発声練習をしたり首を回したり、手を握ったりとまるで認知症予防の運動のようだ。

「はい、みなさんありがとうございます!」

 歌っていた男性は音楽指導の講師。行われていたのは「高齢者向けプログラム」だ。月に一度、懐メロや童謡を歌いながら受刑者が体を動かすというものだ。プログラム終了後、講師の男性に話を聞く。

(写真はイメージ)©️iStock.com

──このプログラムの狙いはなんでしょうか?

「音楽で高齢受刑者のみなさんがストレスを解消して、健康になってくださればと思ってやっています。歌の指導を入れるときは『気持ちを伝えるように優しく歌ったらいいですよ』という指導をしています。温かい気持ちになっていただいて、人に迷惑かけないような気持ちになっていただければ、と思います」

 塀の中で講師を続けていて、“塀の中の高齢化”は肌で感じているのだろうか。

「講師を10年ほどやっていますが、ここ数年でさらに高齢化が進んだと思います。当初は10人くらいでしたが今日はあれだけいました。これからもっと高齢受刑者が増えるんじゃないかと思いますね」