1ページ目から読む
3/5ページ目

「当所の場合は、昭和60年から高齢受刑者の収容を開始していますが、その後、平成20年にそれまでは1か所だった高齢受刑者用のスペースを、その隣にもう1か所増やしまして、この2つの工場で70名程度の収容が可能になっています。しかし、なかなか現状、当所の対応ができる数を超えているので厳しい状況にはなっています」

©️iStock.com

塀の中でも“老老介護”

 尾道刑務支所の一日は、午前6時40分に始まる。起床後、受刑者たちはわずかな時間で洗面を行い、身支度を整える。が、部屋には一人では起き上がれない高齢受刑者がいる。同室の受刑者が二人掛かりで起き上がらせる。

 起きても着替えも一人でできない。着替えを終えた同室の受刑者二人掛かりで手伝う。よく見るとオムツも交換していた。しかし、なかなか足がうまく入らず難航する。朝から何をするにも非常に時間がかかる。彼だけに特別に許可された椅子があり、そこまで手を携えて椅子に辿り着くと高齢受刑者もちょっとほっとした表情を見せる。その間、他の受刑者たちはそれぞれ身支度を進める。

ADVERTISEMENT

 そして、朝食の時間。この日の献立は麦ご飯にキャベツと油揚げの味噌汁、海苔の佃煮、納豆。そして、部屋を見回すと「弁当」と呼ばれる特別食を食べている受刑者もいた。高齢で柔らかい物しか食べられない受刑者に用意される。納豆は刻んで細かくしたもの、味噌汁の具も刻んで小さくしている。

 中にはこんな高齢受刑者もいた。4人部屋に収容されている70代のA受刑者。介助しているのは、やはり同室の受刑者だ。彼らの助けを借りないと生活も難しい状態なのだという。まさに、「老老介護」の状態だ。

 このA受刑者、70代になって生活に困り、強盗未遂の罪で服役。徐々に身体が不自由になっていったという。朝食を食べる時も納豆を自分でかき混ぜることもできず、他の受刑者が朝食の手伝いまでしていた。同室の受刑者にご飯の上に納豆や味噌汁をかけてもらい、それをレンゲで食べるのが精一杯の状態だ。箸が使えないためレンゲの使用が特別に許可されているという。私は今回の取材で彼に注目することにした。

 朝食が終わり、しばらく経つと刑務官が「出室!」と叫ぶ。すると、受刑者の部屋の扉が一斉に開く。刑務作業を行う工場へと移動する。まず先に移動に時間のかかる受刑者だけ部屋を出る形を取っている。高齢者とはいえ、懲役刑を受けた受刑者は刑務作業が義務付けられている。

 刑務官が「イッチ、ニー! イッチ、ニー!」と号令を掛け、高齢受刑者たちも工場へと向かう。A受刑者は車椅子での移動だ。ただここで普通の刑務所と違うのは、高齢受刑者たちの掛け声が一切聞こえないということだ。男子刑務所で刑務官の号令だけが聞こえるというのは異例の状態だ(女子刑務所では移動の際、刑務官の号令、受刑者の掛け声はない)。

 向かう先は、居室エリアと廊下でつながった高齢受刑者専用の工場。中には手押し車や松葉杖を使って移動する受刑者もいるが、車椅子の受刑者は同じ工場の受刑者が押している。

 高齢者エリアはバリアフリーになっており、少ない移動で済むようになっている。工場に入るや否や行われるのが「検身」と呼ばれる身体検査だ。何か隠し持っていないかを刑務官が体を軽く触りながら確認する。高齢者も例外ではない。