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自分の服役回数が分からない高齢受刑者が犯罪を繰り返す理由

 ここは全国でも珍しい高齢者対応の尾道刑務支所。社会の高齢化が進む中、それをはるかに上回るペースで高齢受刑者が増えているという。ここには、そんな年老いた受刑者たちが集められている。ある高齢受刑者と私とのやりとりが、事態の深刻さを表している。

──刑務所に入るのは何回目ですか?

「もう20回くらいになるかな……うん? 14回か15回か……」

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──回数もわからなくなってきているのですか?

「ええ……」

 自分の服役回数すらわからない高齢受刑者。なぜ、彼らは高齢になっても罪を犯すのか。その実態を紹介したい。

 瀬戸内海を望む坂の街として有名な広島県尾道市。その市街地に尾道刑務支所はある。その歴史は古く1877(明治10)年、尾道警察構内に「監倉」が設置され、1925(大正14)年に現在地に移転した。ここは主に刑期10年未満の初犯の刑務所なのだが、その中に特別なエリアが設けられている。支所長が所内を案内してくれた。

「ここは高齢受刑者用の居室棟です。廊下に手すりを設置するという配慮をしています」

 1985(昭和60)年から高齢受刑者の収容を始め、1989(平成元)年から改築を行ったと説明を受ける。単独室と呼ばれる一人用の部屋は3畳ほどの広さ。各部屋のトイレにも手すりが付いている。こうした造りは一般の刑務所では見られない光景だ。

 収容されているのは主に65歳以上の高齢受刑者。刑期や罪状にかかわらず、主に中国地方から集められている。70代が最も多く、最高齢は87歳だ。支所長に聞く。

「s指標」と高齢者

──高齢受刑者の定義は65歳以上ということですか?

「そうですね、そこはなかなか難しいんです。『s指標』という、処遇をする上で配慮を要する符号で“s”というのがあるんですが、特に高齢だと限られてはいないんです。s指標は日常生活の基本動作に支障があって、その処遇上の配慮が必要な人にs指標がついています。sがついている人は現在71名、ただその中で高齢者、65歳以上が現在65名です」

「指標」(処遇指標)とは受刑者を適切に処遇できるよう、その特性・適性に応じて収容する刑務所や収容後の処遇方針を定めるためのものだ。受刑者を適切に分類することで、再犯の防止や矯正教育の効果の向上などが期待できることから定められている。

 たとえばAは犯罪傾向が進んでいない者、Bは犯罪傾向が進んでいる者、Lは刑期が10年以上の長期受刑者、Fは外国人受刑者、Wは女性、などとなっている。sというのは、今回の取材で私も初めて知った。

 この施設の定員は365名に対し220名程度を収容しており(取材時、2015年)、常時、約3割程度が高齢者という割合だ。支所長が施設の特徴を説明する。

「基本的には畳の生活になりますけれども受刑者の身体状況に応じて、たとえば車椅子を使用する必要がある受刑者には居室にベッドを設置し、負担のない生活をさせております。この居室と同じフロアに入浴場、そして作業場を設けている形です。バリアフリーですね。高齢受刑者用の入浴場も一般の入浴場と違う点は手すりを設置しています。身体の機能を補う狙いです」

 つまり、居室、工場、入浴場、食堂、運動スペース、すべてを同じフロアに集中させ高齢受刑者の移動の負担を軽くしているのだ。

──刑務所としては受刑者の高齢化をどのようにお考えですか?