「他の受刑者に課している作業とは全く違いますが、それは彼には作業をできる能力がないので、私の判断でああいう作業を設けてさせています。それでもなかなかできないので、声をかけて手伝いながらという形ですね」
──着替えにしても移動にしても、大変なようですが?
「食事以外のことは自分でできない者もいます。話せないわけじゃないんですけど、言葉をなかなか発しないのでトイレに行きたいとか、服を着替えたい、寒いとか暑いとかという反応もないので、そういう者については衛生係の受刑者に対応させたり、同室者に介助させたりという形をとっています。食事については自分で食べたいものは食べられるんですけど、他のことは自分で思うようにできないんで、あのような形になっています」
現場を見て塀の中の高齢化は想像以上に深刻だ。
──今後さらに高齢受刑者が増えると、刑務官の負担もさらに増えるのでは?
「特に最近は初犯の受刑者が多いので、これから先も高齢者受刑者が増えていくかと思います。今後は生活する居室においての苦労もさらに増えてくるんじゃないかと。たとえば失禁したり、体調が急に悪くなったりというような受刑者が増え、私たちの仕事の範囲、幅が広くなってくるんじゃないかと思っています」
こうした状況のため、ここでの一日の作業時間は一般の受刑者より2時間少ない6時間程度。刑務官が「休め!」と叫ぶと、45分間の昼休みの時間となる。昼食後、受刑者たちは将棋を指したり、新聞を読んだりと自由に過ごすことができる。
「カメ係」受刑者が語ったこと
工場の横にあるベランダに目を向けると、ひざをついて屈んでいる受刑者がいた。何をしているのかよく見てみるとカメと遊んでいるではないか。一般の刑務所では動物を飼うことは許されていないが、この工場では高齢受刑者の“癒し”のためにカメが飼われていて、休み時間になると、ベランダで戯れるというのだ。高齢者に対応した刑務所ならではの特別な措置だ。自らを「カメ係」と称して自発的に世話をしている受刑者二人に話を聞く。二人とも70代だ。
「生き物じゃからね、やっぱり生きているということは慰めになるし……」
「かわいい子どもみたいなものですよ。首をこう上げたり、かわいいものですよ」
──餌はあげているんですか?
「餌は夕方にあげています。ただカメは冬眠をする関係で他の生き物とはちょっと事情が違うんですよ」
──これから冬はどうなるんですか?
「冬も外気温が0度以下になれば冬眠はしますけど、部屋の中で飼っているから冬眠はしません」
塀の中のささやかな楽しみということだろう。担当刑務官は言う。
「10年以上前ですが小さなカメを飼い始めて、生き物の世話をするという優しい気持ちというか、生き物をかわいがってやることに生きがいを感じるということで続けています。段々大きくなってきて今では水槽も小さくなってしまいました。世話係もこちらで指定しているのではなく、自分がかわいがってやりたいという者4、5人で世話したり掃除したりという形でやっています」