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受刑者の入浴介助

 午後3時。一日の刑務作業が終了する。通常の刑務所より2時間ほど早い時刻だ。部屋に戻って、すぐに入浴の準備が始まる。冬場の入浴は、週2回、15分と決められている。高齢受刑者は準備に時間がかかるため、一般の受刑者よりも早めに入浴する。あの70代の車椅子のA受刑者も他の受刑者の介助を受けながら入浴場に向かっていた。

 通常の受刑者は大きな浴場に集団で入るが、身体が不自由で、集団での入浴が困難な受刑者は一人用の浴室で一般受刑者の介助を受けながら入浴することになる。

 脱衣所に到着してもなかなか立ち上がれない。どこかにつかまっていないと立てない状態だ。介助役の受刑者が服を脱がし、オムツを外す。ようやく洗い場に入り椅子に座る。内臓も悪いのか足がかなりむくんでいる。

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「お湯かけるよ!」と声を掛けお湯を浴びると、

「ああ、熱い!」

 と漏らし、あわてて介助役の受刑者が「熱い?」と確認する。浴槽に入り、お湯につかる。A受刑者もほっとした表情を見せるが、また浴槽から出るのも介助をしてもらい一苦労だった。

©️iStock.com

介助は“出所するまで続けたい”

 介助をしていた受刑者に話を聞いた。彼は40代、窃盗罪で懲役4年、介助を始めて3か月だという。

──高齢者の介助は大変そうですが慣れましたか?

「こういう介助の仕事は初めてなので、おたおたする面もあるんですけど、だいぶ慣れてきて高齢者の気持ちになって考えるようになりました」

──最初は戸惑いましたか?

「そうですね、どういうふうにしたら、お年寄りの方が気持ちよく風呂に入ってもらえるかということを考えました。気持ちよかったと言ってもらえると嬉しかったですね」

──出所するまで続けたいですか?

「そうですね、役に立てればどんな形であれ人の役に立ちたいと思っています」

 午後4時半、夕食の時間。夕方5時を過ぎると早々と布団が敷かれる。就寝の午後9時までは「仮就寝」の時間となり横になってもいい自由時間になる。仮就寝も通常よりも1時間早くなっている。ここでも他の刑務所では見られない光景があった。高齢受刑者が自分で布団を敷けないため、同じ部屋の受刑者が敷いてあげるのだ。

 4人部屋の共同室の様子を見てみると、すでに3人の受刑者は着替えを済ませ布団の中に入っている。しかし、一人の受刑者だけ着替えておらず、椅子に座ったままの状態が続いていた。あの70代のA受刑者だった。彼は眠る前に必ずしなければならないことがあると刑務官から聞いた。一体、なんなのだろうと思っていると刑務官が部屋の中へ入っていく。様子を見ていると毎晩、刑務官が二人掛かりで、オムツをA受刑者にはかせているというのだ。