「今日はすごく調子がよかったほうなんですが…」
──話を進めるのがなかなか大変そうでしたが?
「そうですね。今日はすごく調子がよかったほうなんですが、普段は自分がしゃべっていることも、その端から忘れてしまうような記憶の低下がみられる受刑者なので、状態に合わせてしゃべり方を変えています。難しい言葉とか問いかけはなるべく避けて日常生活にある言葉で問いかけて、ご自身の口から希望をハッキリ言っていただけるようにして、そういった支援ができるような働きかけをしていますね」
──彼の場合、今後はどういう流れになるのですか?
「介護保険の要介護認定の申請をすることが方針として決まりまして、要介護を取ったうえで介護施設をあたっていくという流れになっています。その準備段階として出所が半年後なので要介護認定を取ります。出身が尾道ではなくて遠いところなので尾道市のほうに居住依頼をかけてもらって、認定士に調査をしていただくようになりますね」
支所長は現状の問題点をこう見ていた。
「現在、問題になっているのが高齢受刑者や身体障害を有している受刑者です。釈放後自立できない場合、特別調整を行っていますが、実はこれを希望しない人が増えています。しかし、自立できない人たちを円滑に社会復帰させるためには、特別調整の制度を利用させる取り組みが必要です。これからもそういう指導をしていこうと職員には話をしています」
再犯問題についてはどう対応するのか。
「まず特別調整という制度を周知してそこに乗せるのが必要なんですけど、特別調整で釈放した人間が短期間のうちに再犯をしてまた刑務所に帰ってきてしまう、ということも実はあります。ですから、ここで、もう一度再犯防止の指導、そして社会で定着できるための指導をして、社会生活上で必要なスキルの指導の必要性を見直す取り組みをやっています」
高齢受刑者に必要なもの
私は最後にこう聞いた。
──刑務所にいる間、高齢受刑者には何が一番、必要ですか?
「再犯率を下げるためには、受刑者自身が改善、更生の気持ちを持つのが一番で、そのための指導を行います。そして社会福祉の制度を利用して社会で定着させることになるんですが、社会のほうでもある程度の見守りなどのご支援をお願いしたいと考えています」
確かにそれは理想ではあろう。その一方でインタビューした高齢受刑者の中には厳しい現実を見据え、こんな“正直”な発言をする者もいた。
──出所が近づいていますが、再犯をしない自信はありますか?
「ちょっと自信がないです。その時になって少し景気がよくなって、多少でも仕事があるようになればいいんですが、なかなかそうもいかないでしょうし……」
厳しいがこれが現実なのだろう。これからますます進んでいく日本社会の高齢化。われわれがこの厳しい現実をしっかりと受け止め、社会が一体となって高齢者を受け入れる体制作りを進めるなどの問題解決に取り組まない限り、高齢者の再犯を防止することはできない。