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王道すぎて過小評価気味? “化け物級”コンテンツ「名探偵コナン」の底知れぬスゴさ

緊急事態宣言下でも人気は揺るぎない

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2021/04/25

 事件のトリックにはこの社会のあらゆる物質が凶器として使用され、その特性と構造をコナン君が説明して謎を解き明かし解決する。剣道の竹刀。毒物。電気。そこには理科の知識があり、算数の計算がある。

 政治家や大富豪、芸能界やプロスポーツといった雲の上の世界から、地上げに苦しむラーメン屋や普通の高校生の日常まで、めまぐるしく移り変わる事件の舞台には、まるでコナン君が読者の子どもを案内する社会科見学のような多様性がある。

 そしてそこで繰り広げられる人と人との物語は、主人公工藤新一が本棚にあった推理小説、江戸川乱歩とコナン・ドイルの名をあわせて「江戸川コナン」をとっさに名乗る物語の始まりが象徴するように、古今東西の古典、名作ドラマの引用で構成される「国語の時間」なのだ。

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『名探偵コナン』シリーズが優れているのは、そうした科学の知識や古典の引用がきちんと子どもにわかりやすく簡略化されていることだ。かつて『ドラえもん』は多くの日本人にとって人生で最初に出会うSFへのドアだった。藤子不二雄がタイムパラドックスやワープの概念を日本の小学生にもわかるSFジュブナイルとしてシンプルに再構成したように、『名探偵コナン』はミステリーのジュブナイルとして、この社会についての探偵物語を語り続けている。

『名探偵コナン 緋色の弾丸』2021年4月16日(金)全国東宝系公開 ©2020 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

 現在国民的にヒットしている少年漫画を広く見ても、『名探偵コナン』ほど作品の中に社会のあらゆる情報を盛り込んでいる作品は珍しい。たとえて言うならば、美味しく楽しめるお菓子であるだけでなく、国語・算数・理科・社会の情報の栄養価がきわめて高い教育食品にデザインされているのだ。もちろん殺人シーンは多いし、コナン君の言葉遣いも新一モードの時はバーローだのなんだの決してお上品ではない。それにも関わらず、『名探偵コナン』は実際には実に教育的なコンテンツだ。 

女性ファンはなぜ支持するのか

『名探偵コナン』シリーズのもうひとつの特色に、女性ファンの多さがある。一昨年、オリコンニュースが10−40代の男女1866人を対象に行ったアンケートでは、「コナンが好き」と答えた回答の性別比は男性24・7%に対して女性75・3%という圧倒的な女性優位の結果が出ている。その時のオリコンニュースでは女性ファンの多さについて「恋愛要素」「イケメンキャラクターの多さ」といった分析がなされているのだが、アンケートを詳細に見ると「恋愛要素」を好きな理由に選んだ女性ファンは男性ファンより10%ほど多いにすぎない。

 女性ファンの行動は、何かと動機を「恋愛・イケメン」に結びつけられがちだが、個人的には『コナン』というコンテンツが腕力や根性で勝負の決まるバトルものではない、論理と倫理の物語であることが性別を越えて支持される面もあるのではないかと思う。いささか自信過剰気味の天才高校生・工藤新一が小学生の肉体にされ、腕力を失い、ただ知恵だけで悪と戦うことになる。それはまるで王子様が呪いをかけられる古い童話を思わせる。