「ワールドワイドウェブ! ネットサーフィンで世界のページを訪問できる!」といった夢の文言が飛び交ってから四半世紀近くが経ちました。外国語を翻訳するならGoogle翻訳やDeepL翻訳など、さまざまなサービスが登場し、かつては数万円かけてソフトを買って利用していたものよりもずっと高性能な翻訳サービスが無料で利用できるようになりました。
ドラえもんの「ほんやくコンニャク」が現実に
Google翻訳を通してスマートフォンのカメラから看板や標識類を見れば、スマートフォンの画面でリアルタイムで翻訳結果が出てきます。家電量販店に足を運ぶと、話すと外国語で発声してくれるポケトークのほか、文章を読んで翻訳してくれるペン型スキャナ、リアルタイムに翻訳した言葉を音で出してくれるイヤフォンなどさまざまな製品が登場しています。どれも使ってみれば便利なもので、ドラえもんの「ほんやくコンニャク」が21世紀前半にして早くもやってきた感じです。
何かと話題の中国はグーグルが使えないけれど、アメリカに負けじと中国産の翻訳サービスや翻訳機をリリースしています。しかもテンセント、バイドゥ、ネットイース、日本でも進出するAIに強いアイフライテックなど、後追いとはいえ確かな実力を持っている企業が参入しています。侮れません。
その結果、中国では外国語へのハードルが下がっています。しかし、それでも翻訳が難しいジャンルがあります。小説や映画の字幕などの翻訳です。「こんにちは、元気でやってますか?」という簡単な言葉の原文でも、恋人が話すのと敵対する組織のマッチョマンが話すのではわけが違います。
「例えばAIが『神父』と『牧師』の使い分けができるかというと難しい」
小説の翻訳の難しさについて、中国のさまざまな小説を翻訳した経験のある翻訳家の立原透耶(たちはらとうや)氏はこのように語っています。
「もし本当に素晴らしい出来なら、とても期待できますが、現実にはまだまだ難しいのでは?と思いました。例えば、作家や作品によっても文体が異なり、訳しわけが必要なんですが、そういうことまではできそうにない気が……。美文調だったりハードボイルドだったり、作品ごとに訳し分けできるなら、ものすごいんですけど。でもそうなったら、翻訳家が廃業してしまう!」
中国を代表する日本文学翻訳家の文潔若氏は、メディア「中国文藝評論」で、AIによる小説の自動翻訳の可能性についてこう語っています。
「翻訳というのは、自身の知識とは異なる国家間の文化を理解する一種のクリエイティブな労働です。ある国の文字を原作を色褪せさせずに別の国の文字に変えるものであり、外国語ができても母国語の表現能力が十分でなければできることではありません。例えばAIが『神父』と『牧師』の使い分けができるかというと難しい。作品の言葉の風格だとか、作者の生まれ育った経歴とか、思想観念とかそういったものを理解しないといけないのです」