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連載尾木のママで

「釜石の奇跡」に学べ

2016/09/15
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 台風十号による豪雨で北海道と岩手県に甚大な被害が出たと思ったら、今度は台風十二号、十三号が……。ボクの父親が気象庁の技官だったからよく覚えているけど、昔は一時間の雨量が七十ミリでも大ニュースになったのよ。それが最近は百二十ミリなんてことも。これまでの経験では予測もつかないことばかりね。

 台風十号で浸水した岩手のあたりは東日本大震災の被災地でしょう。地震や津波の備えはあっても、洪水は盲点だったのかもね。残念ながら災害は起きるのだから、「防ぐ」より「減らす」発想のほうがいい。「防災」よりも「減災」。そのほうが最近の日本には合っているんじゃないかしら。

「減災」の思想で重要なのは「自助」の精神なの。お役所の「逃げろ」という命令を待つのではなく、各自が判断して避難する。台風十号のときも「自治体が避難勧告を出さなかった」ことは大きな問題だけど、まずは自分の命は自分で守る意識が必要ね。さらに「共助」の精神で助け合えれば被害が最小限で済むはずよ。

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校歌石碑を見る釜石小学校の児童釜石小学校校歌/作詞・井上ひさし 作曲・宇野誠一郎
Photo:Kyodo

 とはいえ実際に逃げるには勇気がいる。どうすればいざというときに自信を持って行動できるか。そのヒントが「釜石の奇跡」にあると思うの。震災のとき、岩手県釜石小学校ではほとんどの生徒が学校外にいたのに、全員助かった。だから「奇跡」と言われるけど、実は日頃の教育の成果なの。防災マップを作り避難ルートを確認しただけでなく、「何があっても生きろ!」と教えた。これが重要。だって井上ひさしさん作詞の校歌がすごいの!「いきいき生きる ひとりで立って まっすぐ生きる」。毎朝これを歌うのだから、たくましい子が育つはずよ。しかも先生方があらゆる場面で「自分を愛すること」を教えている。しっかり逃げることができたのは自己肯定感が強かったから。「減災」のためには自己肯定感を高める教育が必須ね。

「釜石の奇跡」に学べ

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