成果を待つほかない状態で、一向に進展する様子がなく…
それからしばらくして、魏と面会した私は、彼になぜ桑原さんと養子縁組をすることにしたのか尋ねた。
「養子になることはすごく悩みました。中国の両親に申し訳ないと思いました。でも、何度も面会に来てもらい、サインするだけの書類まで送ってこられたので、そこまでしてくれるのならと……」
彼は言いにくそうに答える。その口調からは、魏の方から積極的にというわけではなさそうな空気が漂う。だが、知人の少ない日本で、彼の面倒を見るという人物が現れたことに、私は胸を撫で下ろしていた。
一方で、王の中国での調書を入手するという桑原さんの計画は、一向に進展する様子がなかった。何度か電話を入れたが、「いま鈴木先生と彼が教えている中国人留学生が、現地の弁護士と最後の詰めに入っています」と、最初に会ったときに名前を挙げた鈴木教授が動いているようなことを口にする。私自身も他に仕事を抱えており、急かす間柄でもないことから、成果を待つほかない状態だった。
桑原さんには前科があり、被害者への慰謝料を着服している疑いも
そうした折、桑原さんにはかつて(罪名はわからないが)前科があること、さらに以前も殺人犯と養子縁組をしていたことなどの情報が、知人記者からもたらされた。それだけでなく、魏の両親から被害者への慰謝料名目で現金を預かり、それを着服している疑いがあるとの話も持ち上がってきたのである。
11年になり、最高裁へ上告していた魏の判決が間もなく出るというタイミングで、私はそれらの真相を確認するため、改めて取材に動くことにした。
まず話を聞いたのは魏らが関わった「福岡一家4人殺人事件」の被害者親族であるAさんである。私がかけた電話にAさんは言う。
「4、5年くらい前(06、07年頃)の話です。私の後輩を通じて連絡があり、桑原と実家で会いました。その際に後輩からは『桑原が中国でおカネを(魏の両親から)預かってる。それを渡したいんだ』と説明されてます。それで後輩と桑原、鈴木教授、それに中国人留学生がやって来たんです。
桑原によれば、中国に行って魏の両親と会ってきたということでした。で、鈴木教授が、最初は自分が魏の両親からおカネを受け取ったが、大学教授だからそういうおカネを預かるわけにいかない。それで桑原に預けたと話してました。桑原は預かったおカネについて、『次回持ってくる』と説明して、両親から渡されたのが中国元やUSドルなどバラバラなので、韓国にいる信用できる“李将軍の末裔”という人物、だったかな。その人に一旦預けて、すべてを日本円に換金してから渡すという話でした」