1ページ目から読む
3/4ページ目

日本化していくアメリカのコメディアンたち

 そういう時代だからこそ、僕らコメディアンは今のギリギリのラインがどこかってことに誰よりも敏感じゃなきゃいけない。そのラインを見極めた上で、あえてそのギリギリを批判覚悟で突いていく」

 その一方で、キャンセルカルチャーの波にもまれ、人種やジェンダーなどの話題には触れない“攻めない笑い”に切り替えるコメディアンも増えてきているという。

「こういうのを“クリーンコメディ”と呼んでいて、フリップ芸とか歌ネタとか、日本的な笑いに転じる人もちらほら出てきている。それに対し『コメディは最後の砦だ』、『俺は信念持って発言しているから、舞台上で言ったことに対して謝らない』という人もいて、二極化している。だけど、気づきとか、考えるきっかけを与えられへんのってどうなん?って思うわけですよ。あえて人種に関わる攻めた笑いをやって、それでお客さんが笑ったら、笑った自分に内在する差別意識に気付くチャンスになる。そこを見せるのが一つのコメディの技だと思ってます。

ADVERTISEMENT

 例えば、こんなネタをやったことがある。『アメリカ人ってヒーローが大好きですよね。だけど、スパイダーマン、スーパーマン、ブラックパンサー、ワンダーウーマンと、黒人や女性のスーパーヒーローはいるけど、アジア人のスーパーヒーローっていないよね。だから考えてみたんだけど、“チャイニーズ・バットマン”ってどう?』って。“中国のコウモリ男”だから、『彼はあなたを助けてくれるけど、そのあと熱が出て、2週間隔離されます』。このネタがウケたら、そこからトランプがコロナウイルスを“チャイニーズ・ウイルス”と呼んだことを挙げ、アジア人に対するヘイトクライムの話に展開するんです」

アジア人差別の実態 マスクをしていたら……

 コロナ禍でいまや当たり前になった“マスク”も、かつてはアジア人を嘲笑するキーワードだったという。

「アメリカっていう国は本当にヒーローっていう言葉が大好きなんですよ。例えば、最前線で働いている人をヒーローと呼ぶのはわかるのですが、レストランに行ったら張り紙が貼ってあって《マスクをつけよう。それで君もヒーローだ》って書いてあった。だから、『ちょっと待って、だったら、アジア人は40年前からヒーローじゃないか』と。

 コロナがアメリカに本格的に上陸する前は、僕らは予防も兼ねて当時からマスクをつけて歩いていたんです。すると完全に重病人だと思われて、いわれのない暴行を受けたり、罵詈雑言を浴びたりという事件が日常的にあった。アジアのウイルスだといって、差別されていて、アジア人はマスクをするということで、差別の対象にもなっていたんですよ。

アジア人へのヘイトクライムに反対するデモ ©️AFLO

 だから『じゃあ、アジア人はずっとヒーローじゃないか』とネタにした。アメリカ人が気づかないようなアジア人に対する差別を風刺する。こういうことが本来は必要なんじゃないかと思います」