大学を卒業後、再びシカゴに渡り、舞台に立ち続けた。
「ウケてないやつは、確実にブッキングされなくなっていく。以前、舞台上から、客いじりを兼ねて、『今までにスタンダップコメディの舞台に立ったことある人は拍手して』と聞いたことがあるんですよ。2~3人だろうと予想していたんですが、7割ぐらいの人が拍手したんで、えええぇ!?って驚いた。そんなことある?と思って、楽屋に帰って他のコメディアンに話したら、『そんなもんやろ』って。
そいつが言うには、オープンマイクという誰でも出られるイベントがあって、『オープンマイクに出て滑ったやつは客席に戻っていくんだ。ウケ続けたやつだけがステージに残る。だから、コメディアンは尊敬されるんだよ』と。しばらく経ってそいつは客席に戻っていったんですけどね(笑)。客席にいるから、驚いた」
スタンダップコメディは分断を解消する
ステージに残り続けていることが、実力の証明なのである。では、アメリカのスタンダップコメディは、日本のお笑いとどう違うのか。
「コメディクラブという文化が豊かだなって思うのは、人種も性別も思想も異なる多様な人々が集まって、自分と違う意見に出会える場所だからです。例えば、舞台上のコメディアンが共和党支持で、自分は民主党支持だとして、民主党をからかうジョークや共和党の自虐ネタに、面白いね、あははって笑った瞬間に、その空間には分断ってないはずなんですよ。だから、分断が可視化された中で、スタンダップコメディはそれを解消するきっかけになる貴重な芸能だと信じている」
多くの日本人は、スタンダップコメディというと、人種差別ネタやエログロのネタが多く、タブーのないお笑いとイメージしているが、その認識は古すぎるという。
“客いじり”で警察に通報されたコメディアン
「たぶん、それって80年代くらい、エディ・マーフィーの時代のイメージなんですよ。今は日本よりアメリカの方がタブーによっぽど敏感です。それは社会の潮流が“キャンセルカルチャー”になっているから。要は、差別的な発言をした人は、炎上させて降板させるということ。ケヴィン・ハートというトップコメディアンがいて、オスカーの司会に決まったんですが、12年前のたった数行のLGBTQの人を揶揄するツイートを掘り起こされて、降板に追い込まれた。
この事件は、自分にとっては遠い話だと思ってたんですよ。そこまで大きな仕事が来てるわけじゃないので。だけど、僕のよく知ってるコメディアンが、舞台上でしゃべったことで警察から取り調べを受けたのには衝撃を受けた。その人はアラブ系なんですが、『今日のお客さんの中には俺と同じような顔がたくさんいるな。俺たちでテロ組織ができそうだな』って言ったら、観客の一人が通報した。でもそのときに警察官が、『通報があったから取り調べをするけど、今日のお前のネタ、絶対にやめるな、そのままやり続けろ』と言ったと。美談と言っていいのか、よくわからない話ですけどね。