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《“チャイニーズ・バットマン”ってどう?》シカゴで活躍する日本人コメディアンが「アジア人差別ネタ」を止めない理由

シン・お笑い芸人論 #4

2021/05/02
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 昨今はアジア人へのヘイトクライムが急増したと報じられることが多いが、コロナ禍ではそれ以外のマイノリティへの差別も顕在化していった。マスクひとつとっても、アメリカでは人種間の闘争が起きていたのだ。

アジア人へのヘイトクライムに反対するデモ ©️AFLO

黒人がマスク着用に抵抗したのはなぜか

「CDC がマスク着用勧告を4月に出したんですよね。そしたら『マスクをつけない自由』って言って、ライフル持った人とかが集まってデモを始めたんです。それに加えて、黒人とヒスパニックのコミュニティもマスク着用に関して抵抗を示した。なんでかって言うと、これまで例えば黒人がフードをかぶって夜歩いていたというだけの理由で、不当な逮捕や拘束を受けてきたという歴史があるわけです。だからマスクをつけることによって怪しいと思われて、不当な逮捕が横行してしまうんじゃないかと。

 アメリカでは、マスクという問題だけでも一筋縄ではいかないんだっていうのは目の当たりにさせられましたね。いまは都市だとマスクをつけてる人が多いですよ。南部のほうだと、『フリーダム!』って言ってつけない人が多いですけど(笑)」

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黒人差別に安泰するデモ ©️AFLO

 しかしスタンダップコメディはそんな状況をこそ“笑う”のが使命だ。客に対して耳ざわりのいいネタばかりやるのはスタンダップコメディではないし、こうした辛辣なネタでも評価する懐の広さがアメリカにはある。

「僕自身、自分のことを“レモン”と呼んでいる。“バナナ”という呼び方があって、外っかわは黄色いけど、中身は白くてアメリカナイズされたメンタリティを持っているという“蔑称”なんです。けど、レモンは外っかわも中身も黄色いし、その僕の視点から放つジョークで、アメリカ人に『酸っぱい』っていう刺激を与えることができると思う。レモンという存在でアメリカという国をジョークにできた時に、僕がアメリカの舞台に立つ意義があると思っています」

 アジア人である自分にしかできない笑いの中に毒を潜ませる。スタンダップコメディの神髄はここにあるという。

 後編に続く。

《“チャイニーズ・バットマン”ってどう?》シカゴで活躍する日本人コメディアンが「アジア人差別ネタ」を止めない理由

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