米イリノイ州シカゴの劇場で、年400回、スタンダップコメディの舞台に立つ日本人がいる。Saku Yanagawa、奈良県生まれの28歳。世界11か国で公演を行ない、今年、Forbes誌が選ぶ「30 UNDER 30」(世界を変える30歳未満の30人)に、アジアの代表として選ばれた。
前編では、アジア人に対する人種差別とスタンダップコメディをテーマにしたが、後編では日本でも議論になっている「傷つけない笑い」について語った。(全2回の2回目/前編を読む)
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日本でタブー化され始めた「容姿」というジャンル
「2年ぬか床に漬けたあいみょんみたいな顔をしている」
こうしたネタで笑いを取ってきたお笑いトリオ「3時のヒロイン」の福田麻貴が、4月8日にツイッターで、《私達は容姿に言及するネタを捨てることにしました!》と宣言して話題になった。いま、日本では「傷つけない笑い」が議論になっている。
この3月に情報番組の「スッキリ」(日本テレビ系)が、アイヌ民族を差別するような表現のある動画を流して謝罪に追い込まれたように、ずいぶん前から出自や民族、人種を揶揄するネタはタブーであった。しかしここに新たに「容姿」というジャンルが加わることになるのかもしれない。
人を容姿で判断するルッキズムに敏感なアメリカでは、笑いにどんな変化が起きているのだろうか。アメリカといえば、人種差別や政治、エログロなどを風刺するアメリカのスタンダップコメディが主流だ。そこに、閉塞感はないのだろうか——。
アメリカでは他人の容姿をいじるのはダメ
シカゴで活動している日本人スタンダップコメディアンのSaku Yanagawaによると、アメリカのスタンダップコメディが“タブーなき笑い”であるというのは大きな誤解なのだという。
「そもそもアメリカのスタンダップコメディは、ユダヤ系や黒人など、差別されていた人がその現状を笑い飛ばすようなネタをやったというのが原点といわれている。自身の出自や人種、ジェンダーを半ば自虐的にジョークにして笑いをとってきた。例えば日本人だったら、目が細いとか、背が低いとか、僕自身もそういう自分のステレオタイプをネタにしたことがあるし、簡単に笑いも取れる。
ただ、アメリカでは他人の容姿をいじるのはダメです。ここ最近は特に“ボディシェイミング”をやめようという考え方が広まっている」