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ハリセンボンへの“容姿いじり”にNOを突き付けた歌姫

 ボディシェイミングとは、他人の容姿を馬鹿にしたり、批判したりすることを指す。2016年4月に歌手のアリアナ・グランデが来日し、「スッキリ!!」に出演した際、マイケル・ムーア監督やシュレックに似ているとイジられるハリセンボンの近藤春菜に対し、アリアナは一切笑わなかった。

アリアナ・グランデ ©AFLO

「“デブいじり”や“ハゲいじり”などがダメなのはもちろんですが、大阪のオバハンが『あんた、顔ちっちゃいねんなー』って言うのも、一見褒めているように聞こえますが、『顔は小さいほうがいい』という自分の物差しで他人の顔をいじってるわけで、これも時代遅れとされている。アメリカの笑いの世界では、褒めるのもけなすのも、他者の容姿をいじるのはもうないんですよ」

 この流れから出てきたのが“ボディポジティビティ”なのだという。体が細かろうが太かろうが、たとえ欠損があったりしても、それを全部、自分で誇りを持って愛そうという考え方だ。

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「ただ、どんな容姿であっても自分はポジティブに生きていくんだというメンタリティで、そのうえで自虐するジョークなら別にいいと思うんですよ。

 だから唯一、容姿のことで笑いを取れるのは自虐ネタ。例えば、女性のコメディアンで、『私、スカーレット・ヨハンソンが豊胸手術を失敗したみたいな見た目でしょ』とか、『私、ハンプティ・ダンプティみたいでしょ』とかを掴みにしている人もいる。自分の容姿を笑いにするのは、ままある」

トランプ政権で潮目が変わったアメリカのコメディ

 アメリカでは以前から他人の出自や人種などをいじるのは論外だったが、自分自身の自虐ネタであれば許されてきたのだ。しかし、その風潮もここへきて変革を迫られているという。

エディンバラでの公演

「ただ、自虐ネタって、差別を笑いで昇華するというより、結局、ステレオタイプを助長してるだけなんじゃないのという疑念にずっとかられていたんですよね。

 それが本当にこの3年くらいで、アメリカのコメディの潮流が変わって“脱自虐”の時代が来ているのは事実。僕も2年くらい前から、自虐ネタはやめています」

 潮目が変わったのは、トランプ政権の誕生と関係があるという。トランプ大統領は、分断を煽ったのか、それともすでにあった分断を顕在化させただけなのか、評価が分かれるところだが、彼が人種差別的な発言や政策を繰り返したことで、結果的にアメリカ社会に内在する差別を炙り出したというのだ。