文春オンライン

昔は海だったターミナル「横浜」が“ナゾのダンジョン駅” になった理由

“日本のサグラダ・ファミリア”はどうして生まれたのか

2021/05/10
note

「横浜」には何がある?

 横浜駅の中心は、かつての国鉄の系譜を引くJR。それも保守本流、東海道線こそが横浜駅の顔である。そしてそのJR横浜駅を取り囲むように、私鉄や地下鉄の駅がある。

 南北に通るJR線と東側に並んでいるのが京急線。南西の端っこには相模鉄道。東急線とみなとみらい線、そして横浜市営地下鉄は地下にホームがあるので、地上にホームを持っているのはJR・京急・相鉄の3社だけだ。JRを中心に北東と南西という対角に京急と相鉄がある構造なので、そのあたりは案外わかりやすい。

 JRのホームから階段を降りてコンコースに出て改札を抜けると駅の東西を結ぶ自由通路。それが横浜駅の基本パターンで、自由通路が中央・南・北の3つある。

ADVERTISEMENT

 

 横浜駅で迷うとすれば、まずはこの3つの自由通路のどこにいるのかがわからなくなってしまう、というものだ。自由通路を互いに結ぶ通路もあるにはあるが、あっちに行ったりこっちに行ったりを繰り返してしまえばますます迷うので、とにかく目的地に応じてどの通路を目指すのかを決めねばならぬ。

まずは中央通路から

 改めて横浜駅に降りた以上、やはり王道をゆくべきだ……ということで、まずは中央通路に出ることにした。中央通路のちょうど真ん中あたりで、ちょっとした待ち合わせスポットになっている場所があった。近づいてみると、「赤い靴はいてた女の子像」。

 

「赤い靴はいてた女の子像」とは、すなわち童謡「赤い靴」がモチーフの小さな像。野口雨情が作詞、赤い靴をはいてた女の子が異人さんにつれられて横浜の埠頭から汽船に乗って行っちゃった、という歌詞でおなじみの童謡だ。横浜が舞台の童謡なので、1982年から横浜駅前に像が置かれていたという。駅の改良工事のために1998年に撤去されて一時姿を消していたが、2010年に改めて中央通路に登場した。異人さんにつれられて行ってしまう女の子の像で待ち合わせとは、デートの場合にはなんだか不穏な気がしなくもないが、とにかく横浜駅のシンボルなのである。

「駅の正面」はどこにある?

 さて、中央通路に出たからには、東西のどちらかに出なければならぬ。やはりこちらも王道保守本流、駅の「正面」に出るのが正統である。

 駅に正面もへったくれもなかろうと思うかもしれない。たしかにその通りで、令和のターミナルは周囲すべてがぎっしりと市街地になっているから、正面や裏口のようなものは事実上ないといっていい。表と裏をあれこれするのもどうにも差別的なきらいもあるし、今の時代にはふさわしくないのかもしれない。

 ただ、歴史的には間違いなく駅には正面がある。東京駅の荘厳な煉瓦造りの丸の内駅舎は間違いなく正面たる風格を持っている。それと同じように、ターミナルは町の中心に向かって正面の駅舎を持つものだ。横浜駅にとって、それは東西のどちらなのだろうか。