漫才はコントと違い、“地の部分”をデフォルメすることでネタに厚みが増す。山内は柔軟に「客観的に見た自分の面白さ」を取り入れ、いかんなく賞レースで発揮した。2018年、「知名度」「経験値」「賞レースの結果」という強力なカードを揃え、満を持してかまいたちは再び東京進出を果たした。
千鳥との違いは「異常なまでの柔軟性」
東京にやってきて間もなく予想外のことが起きた。大阪時代にMCをソツなくこなし、後輩からも慕われる「劇場の番長」だった濱家が突如イジられ始めたのだ。初めての状況に、当初は濱家も「オレ、こっちか?」と首を傾げたという。
とはいえ、ここでも彼らの対応力はすさまじかった。
濱家はイジられキャラを受け入れ、時におどけ、時に不満をこぼし、時になげくようなリアクションでスタジオを沸かせるようになった。また山内は、「これ余談なんですけど……」から始まる濱家のエピソードで笑いをとり始めた。こうした持ち味が徐々に評価され、2020年から冠番組が始まるなど怒涛の活躍を見せているのは周知の通りだ。
これは推測だが、“濱家イジり”は漫才の副産物だったのではないか。山内の“サイコキャラ”を軸にネタを固めていく過程で、「そんな山内に振り回される濱家も面白い」というイメージが浮き上がった。
先輩芸人がそこに気付き、まずはバラエティーで濱家がイジられ始めた。注目すべきは、かまいたちがここに光明を見出し、漫才の要素として取り込んだことだ。2019年のM-1で披露したネタ「USJ」では、頭を抱えて取り乱す濱家の姿があった。つまり、これ以上なく「虚実皮膜」(芸の真実は虚構と現実との微妙な間にあるとすること)を実践したネタなのである。
たびたび引き合いに出される人気コンビ・千鳥と異なるのは、この「異常なまでの柔軟性」だ。かまいたちは、他者の視点を受け入れ、その都度武器を拡張していく。登録者数108万人を突破したYouTubeチャンネル『かまいたちチャンネル』は最たるものだ。YouTuberの成功例に倣い、見事に人気コンテンツへと成長させていった。
最新のインタビューによると、山内は47歳、濱家は55歳で大阪に戻ろうと考えているようだ(2021年4月20日公開「QJWeb」)。これが本音であればリミットは限られている。脂の乗った今の彼らを目に焼きつけておこうと思う。