双方ともが互いを憎み、いがみ合っていることがはっきりとわかった。
その後、2カ月ほどして、石川さんは理事長からの勧め(*6)で家庭裁判所に調停を申し込んだ。しかし、結果は不成立。調停委員の答えは「あんな人相手では、お子さんのためにも引っ越されたほうがいいでしょうね」だったという。
*6 こういえば聞こえはいいが、実際は面倒くさがっているだけ。マンションのトラブルは当人同士が解決しなければならない。理事長も内心は「君子危うきに近寄らず」といったところ。それを住民さんにわかってもらうため、「第三者に入ってもらって解決しなさい」と遠回しに示唆しているのである。
ある住民紛争の顛末③ 「おまえらの怠慢で、お袋は死んだ」
その間に須藤さんのお母さんが亡くなり、矛先はついに住民間の争いに干渉しない態度をとり続けている理事長や理事たちに向かってきた。
須藤さんが言うには、あれほど事前に調べてくれと言っていたのに調べようとしてくれなかった。言われたとおり文書にして提出したにもかかわらず、相手の言い分だけに耳を傾けた。理事会として動こうとしてくれなかった。お袋が死んで、家内や息子はますます変になってきている。それもこれも理事長、あんたのせいだ……。
私はたまたま駐車場で須藤さんと理事長が出くわした場面に遭遇した。「あんたら理事は全員、石川の手先で、グルになって、私の家族を崩壊させようとしている。私が前に住んでいたマンションの住人たちの指図で動いているんだろ。おまえらの怠慢で、家族は崩壊し、お袋は死んだ」
理事長に向かって毒づく須藤さんの表情は、私には狂っているようには見えなかった。狂っているとすれば、論理のほうであって、感情のほうではなかったのかもしれない。
本当にあのとき、単なるパフォーマンスでもいいから、理事たち全員で、石川さん宅を見に行き、なにもないことを須藤さん本人に納得してもらっていたら、その思いもこれほど深くは進行していなかったのではないか。そう考えると、ちょっぴり後ろめたい気分に同情が混ざる、悲しい一幕(*7)であった。
*7 このエピソードは京都でのものであり、この対立の結末を知る前に、私たちは大阪への転勤を命ぜられた。おそらくは今でもそれまでと同様に仲たがいしながら暮らしているか、家裁の人から示唆されたように若い石川さんのほうが引っ越しているかであろう。いずれにせよ、いったんこじれてしまった間柄というのはなかなか修復できない。いずれか一方が去るしかない。マンションの悲しい現実である。
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