エントランス横にある小さな事務所にちょこんと座り、住民からのさまざまな相談を受け付ける……。そんなマンション管理員の実情をあなたはどれくらいご存知だろうか。

 マンション管理員歴13年の南野苑生氏は著書『マンション管理員オロオロ日記――当年72歳、夫婦で住み込み、24時間苦情承ります』(三五館シンシャ)で、マンション管理員としての波乱万丈な毎日を紹介している。ここでは同書の一部を抜粋。集合住宅での生活において、切っても切り離せない「近隣トラブル」についてのクレーム、対処法を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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騒音トラブル:「階下がうるさい!」

 マンションにおけるトラブルといえば、騒音問題がトップに躍り出る。

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 一般に生活音は、許容の範疇に属するといわれるが、同じ生活音でも我慢できる人とできない人がいる。法律では許容の範囲を「受忍限度(*1)」というらしいが、人によって受忍限度は異なっている。

*1 都道府県によって、騒音の基準は異なるようだが、条例によって定められている場合が多い。ふつうの住宅専用地域レベルだと、午前8時から午後6時までの時間帯での生活音は50デシベル、午後11時から午前6時までの時間帯では40 デシベル以内というのが一般的だろう。夜の時間帯で図書館にいるよりもうるさく感じれば受忍限度を超えた「騒音」であると考えていい。

 なにが異ならせるのかといえば、「被害者」たるその住民の、特定の住民に対するココロのあり方が大いに関係するのである。

 たとえそれが、バイオリンの奏でる美しいメロディ(*2)であっても、嫌いな人の出すものであると知れば、途端に騒音に変わるようなものだ。

*2 以前、テレビでやっていた話で、京おんなが隣家の娘さんの奏でるピアノの音を聴いて、その家の奥さんに「娘さん、ピアノ上手にならはってー」という感想を述べるのがあった。これは決して褒めているのではなく、「うるさいからやめてくれ」と言っているのだという。

 管理員がもっとも困るのは、聞こえないような小さな音でも気になって眠れないと訴えられるときである。

 そしてそういう人に限って、長年にわたり相手住民とやりあっており、根深い確執を引きずって愁しゅうそ訴している場合が多いのである。「泉州レジデンス」に赴任してまもなくのこと。住民の大谷さんからクレームが入った。夜中に出す直下階の音がうるさくて眠れないというのである。

 調べてみると、階下の住戸は長期不在届けが出ており、誰も住んでおらず、その隣の住戸もまた売りに出ていて、まだ買い手もついていない状態であった。

 念のため、事情通の理事に尋ねてみると、大谷さんの苦情はこれが初めてではないという。

 理事が言うには、別フロアの益田さんは仕事で動力ミシンを踏んでおり、急ぎの場合は昼夜を問わず仕事をする。時として、それが深夜に及ぶことがあり、それとは知らない大谷さんから以前より「階下がうるさい」と苦情が出ていた。そのたびに貼り紙をして注意を喚起していたが、一向にあらたまらず、歴代組合理事長もあまり関わらないようになっているのだった。

 それで、大谷さんは真剣に取り合ってくれない管理組合ではなく、新任管理員である私に言うことで事態の収拾を図ろうとしている、というのだ。

 もちろん、それを聞かされた私は、いきなり益田さんのところに行って注意したりはしない。