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「誰も助けてくれない」「自分は価値がない人間だ」13歳から父親の性被害にあっていた女性の“悲痛な告白”

『13歳、「私」をなくした私 性暴力と生きることのリアル』より #1

2021/05/22
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 しかし、ほとぼりが冷めてからまた父は布団に入ってくるようになった。

 父の行動は、ずっとほとぼりが冷めてからの行動だ。

 何かまずいことが起こる。

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 しばらく姿を消す。

 そして、現れる。

 そんなことの繰り返しが彼の人生のパターンだった。

解離――スプリッティング

 再開したとき、私はもう耐えられなかった。

 心が耐えられないとき、人は感覚や感情を遮断する。それは、無意識に行われるものだ。負荷がかかりすぎてブレーカーが落ちた状態である。

 私は、何も考えず、何も感じないように時を過ごした。その間に父の行為は少しずつエスカレートしていった。私はこのときから「解離」といわれる状態にあったように思う。

 解離とは「通常は統合されている意識、記憶、同一性、周囲の知覚などの機能」が失われる状態である。私が私でないような、ここにいるのに周囲と切り離されているような感覚だ。それは特に虐待などの「トラウマ的な出来事、解決しがたい人間関係の問題などの心因性の要因」から生まれるという(落合慈之監修『精神神経疾患ビジュアルブック』)。

 傍から見たら、なぜこのことがそこまでストレスになるのかと思われるかもしれない。

 確かに、命の危機を感じるような激しい暴力があったわけではない。

 でも、私は怖かった。あの経験は怖い以外の何物でもなかった。

 しかし、そういう経験だとすぐに認識できる人は少ない。そもそも私も長い間、自分が怖かったのだということさえ理解できなかった。

 私は父が何をしているのかわからなかった。

 次に何をしてくるのかもわからなかった。

 私の意思などないかのように、私自身を無視してお構いなく続いていく行為。

 私の身体は引きちぎられ、ばらばらになっていく。

写真はイメージ ©️iStock.com

(私は嫌だと言っている、嫌だと示しているのになぜ?)

 答えのない迷路に入り込み、暗い穴に落ち込んでいく感覚を今でも覚えている。

 それは逃げ場のない恐怖だった。