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「ここまで来たらしゃべらなあかんやないか」

「そんなこと、言うたんかいな」

 そう水谷が驚いて目を見開く。すると慌てて山本が打ち消す。

「そんなこと私は言うてないですよ」

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「まあ、言うたの言わんのは別だわな。真実は」

 うつむいたまま山本が次にツラミを焼く。文字どおり、ツラミは牛の頭部だ。やや固いが、焼肉通が好んで食べるという。水谷が続けた。

「俺は、こういう話は本人がいるところでしかせんからね。この方(山本)も、大久保さんに恨みがあるわけやない。大久保さんのおかげで、自分もええことあったわけやし。だから大久保さんを非難する気はないんや」

 水谷はアルコールを飲まないが、山本もまたベンツを飛ばして神戸から三重まで来ているから、酒を口にしない。アルコール抜きの焼き肉ディナーだ。

「現金の授受現場に山本さんがいたのは、どうしてですかね」

 やはりストレートに水谷に聞いた。水谷は口のなかのカルビをウーロン茶で喉に流し込んだ。いっしゅん間が空いた。そして視線を壁のほうにそらしながら、舌を鳴らす。

「まあ、俺が頼んだんやからな、それは。俺は現場にいなかったから話せない。けど、だからこの人は、川村と同じくらい事情をわかっとるんや」

 すると、山本が肉を焼く手をとめた。そして、水谷の顔を凝視する。それから私のほうをちらりと見るや、焼きあがった網の上のツラミを水谷の取り皿に次々と乗せていった。みるみる皿は肉でいっぱいになり、タレが溢れそうだ。

「もう、いらんて。そんなに食べられへんがな」

 水谷が山本の手を抑えた。そこで、山本が口を尖らせる。

「もう会長……そんなにしゃべるから。口が開かんように、こういう固いのを噛んどいてください。喉がつかえん程度に、固いやつ噛んでくださいよ」

 それを無視するかのように、水谷がまるで山本の代弁者のように言葉をつなぐ。

「山本さんもつらい立場なんや。やっぱり社員がおるし。仕事は減ってきとるし。建設業を辞めないんだから、余計なことを言うと飯食っていけなくなるやん。だけど、ここまでくれば世のために道義的にしゃべらなあかんやないかっていうのが、検事さんや。そして、国民感情もそうやろな」

 山本が苦笑いしながら、つぶやいた。

「子供の縁談もあるし、嫁にもやらないかん。なんかあったら、一家そろって化けて出ないといけなくなるじゃないですか」

小沢一郎への裏献金疑惑

 水谷功は08年5月、総額11億4000万円にのぼる巨額脱税の罪により、三重刑務所に服役する。それから1年半後、収監中だった水谷の証言により、小沢一郎への裏献金疑惑が浮上した。小沢にとっては、まさしく青天の霹靂のような出来事だったに違いない。

小沢一郎氏 ©文藝春秋

 小沢一郎と検察の全面対決─。そう騒がれはじめたのは、09年4月に大久保が政治資金規正法違反事件で逮捕されて以降である。衆院選挙を控えていた時期だっただけに小沢サイドは、「民主党つぶしの国策捜査だ」と、いっせいに検察批判の気勢をあげた。事実、これまで見てきたように、自民党の二階俊博などにも西松建設からの不正献金がありながら、捜査が進んでいなかった。二階については、最終的にも、秘書に対する罰金という微罪しか問えていない。そうして検察批判に勢いが増し、小沢サイドに立つ有識者などが続々とあらわれる。